1995年に起きた警察庁長官狙撃事件。オウム真理教の犯行との見方が支配的だったものの、容疑者を特定できずに時効を迎えた。元刑事が捜査の内幕を明らかにしたのが本書だが、多くの人は驚愕するだろう。

 時効の2年前に別の事件で無期懲役になった初老の男の家から長官狙撃を連想させる証拠が見つかったことで事態は急変する。男は警官殺しで服役経験があるばかりか、米国から多くの銃器を密輸していた。取り調べでは、警察を愚弄するかのように、犯人しか知り得ない事件当日の現場の状況も語る。

 それでも、男は、起訴されなかった。警視庁公安部はオウムの犯行という筋書き以外は受け入れがたかったのだ。真実に近づくことよりも組織内部のメンツを重視する。警察の暗部を浮き彫りにした一冊だ。

週刊朝日  2018年6月8日号