現時点で分かっている科学的な内容を巧みに取り込みつつ、可能な限り理にかなった方法で、最も合理的に効率よく外国語を身につけるにはどうしたらよいのかについて、筆者が模索し、実践してそれを洗練させてきた結果、こうした方法論にたどり着いた。その集大成が本書といえる。

 たとえば、筋力トレーニングひとつとっても、やみくもに負荷を与えればそれでよいかというと、そうではないことがわかっている。適切な負荷を、適切なタイミングで与えることが本質的な筋肉の成長には重要であって、苦行のように負荷を与え続けることは単なる自己満足にしかならない。それどころか、かえって逆効果になることもある。

 本書が暗に企図しているのは、外国語学習において多くの人が陥りがちな、努力さえすれば何かが身につく、という信仰にも似た思い込みが誤りであるという問題提起ではないだろうか。

 「努力」してしまうと、外国語は身につかない。

 生きた外国語を、それが必要な現場で、呼吸をするように繰り出して使いこなしていくには、苦行のような「努力」の積み重ねがそれを邪魔してしまう。苦しければ苦しいほど、身についたような錯覚も満足感も得られる。だが、それでは生きた外国語を身につけることはできない。

 もちろん、テストで満点を取るために外国語をマスターしたいのなら、「努力」することは極めて有効だといえるだろう。それ以外の方法は考えにくいかもしれない。

 しかし、本書を手に取った皆さんが本当に身につけたいと望んでいるのは、テストで満点を取れればそれで済んでしまうような、死んだ言語体系ではないだろう。

 私たちヒトの脳は、変化を重ねる環境に適応するために相応の形をしている。その脳の特性に合わせた学習をすることで、自己満足に陥ることなく、スマートに外国語を使いこなすことができるはずだ。

 筆者の提唱する方法がヒトの記憶の特性をよく捉え、それに沿って設計されていることに驚く。外国語学習もようやくこういう段階にきたのか、という感慨を新たにしてしまう。

本文中にも登場するが、

原則1 脳の「忘れるフィルター」を突破する
原則2 できるだけラクをする
原則3 「思いだす」と忘れない
原則4 忘れる直前に思いだす
原則5 過去の記憶を上書きする

 という5原則は、外国語だけでなく、これから学ぶすべての事物の学習に役立つものだろう。ぜひこれを実践することで、多くの読者に、真の学ぶ喜びを味わっていただきたいと思う。