●米中の間で議論が始まっている北朝鮮有事への対応

 こうした発言は、米中の間で北朝鮮有事への対応について話し合いが始まっているからこそ出てくるもの。中国では、「米国の北朝鮮攻撃不可避論」や「中国の北朝鮮介入論」が徐々に高まっていると聞く。

 また、中国共産党関係者からは、有事の際に中国軍が北朝鮮領内に入り、核ミサイル施設を制圧し管理するとの発言もあった。中国の習近平国家主席が昨年夏ごろ、すでに吉林省に難民キャンプ5ヵ所の設置を指示したとの情報も伝えられている。

 中国は、米国に北朝鮮との対話を促しながら、一方でこうした現実的な対応も始めている。そうした流れは、習主席の特使として北朝鮮を訪問した宋濤(そう・とう)政治局員が、金委員長との面会すら実現しなかったあたりから強まったと見られる。

 北朝鮮で政権交代を促すためには、あくまでも米国の軍事的な圧力が背景となるだろうが、最終的にどのような決着になるかは米中の話し合い次第だ。米中がそろって介入することで、北朝鮮の反撃能力を取り除くことができれば、日本の犠牲は最小限にできるだろうし、米国が北朝鮮を崩壊させることが確実になれば、中国が先に手を下すかもしれない。

 また、米国や中国が直接、手を下すのではなく、朝鮮人民軍のクーデターによって政権が交代する方がより犠牲は少なくなるであろうし、その方が望ましい。これまで、北朝鮮におけるクーデター計画は未然に防止されてきた。

 しかし、米国ないし中国が後方支援するとなればクーデターを行おうとする動きが出てくるかもしれないし、成就する可能性も高まろう。秘密裏にクーデターを支援するという場合、米国よりも中国の方が協力しやすい面もあるだろう。

●日本はタブーを捨て現実的に対応するべき

 日本は、これまでこうした議論は避けてきた。しかし、それで本当にわが国の国民の安全を守れるのか。そろそろタブーを捨てて、現実的に対応することが国益に資するのではないか。状況さえ把握していなかったという事態は最悪である。

 そしてもう一つ。日本にとって重要なことは、米中の話し合いが先行することがないよう、米国との連携を強化しつつ、米中の連携を後押ししていくことだろう。

 文大統領も、こうした選択を迫られた時に影響力を行使できるよう、米中の首脳といい関係を結んでおくべきなのだが、実際にやっていることはこれに逆行するもの。日本に対しても、慰安婦問題などで挑発的な行動に出ている。日米韓の連携が最も重要な時期に何を考えているのかと思うが、それが現実である。韓国とどのような協力が可能か、今しばらくは様子を見るしかない。

 こうした動きが本格化するのは、中国の人事などが固まる3月の全国人民代表大会(全人代)以降だろうが、残された時間は少ない。今すぐにでも日本として現実的に取り得る対策は全て整えていく必要がある。

(元在韓国特命全権大使・武藤正敏)