
大:ない、ですね。
阿:なぜ?
大:うーん。しょうがないよね、という感じですかね。
阿:アハハハハ。
大:40代の前半、まだプロデューサーになった初めの頃はあったかも。それはニュースとドキュメンタリーの違いもあるのかもしれないですね。ニュースだと、どうしても一言が欲しい。新聞のインタビューを受ける機会に、記者が自分で「それはこういうことですか?」としゃべる。僕はうなずいて聞いているだけなんだけど、記事では僕が話したように文字になっているんですね。
阿:どうしても合理的に取材をこなそうとすると、事前に頭の中で仮の原稿を作り、型にはめ込もうとしがちになる。私もディレクターをやっていたときに覚えがあり、反省もあって、いまは「ムダ打ちはいくらやってもいい」と言っている。時間をかけることで、ええっ!!という画が撮れる。
大:ありますね。
阿:だけど大島さんの本を読んでちょっと反省しました。そういうムダ打ちは取材対象にしてみたら(撮られ続けるのは)こんな迷惑なことはない。
大:いや、私も被写体にカメラを向ける時間を減らす傾向にあるぶん、コミュニケーションの時間は多めに頂いてるので。
阿:それはわかります。僕らは2011年に映画の世界に入っていったんですが、当時映画の人たちによく言われたのが「テレビの人はいいよなあ」。とくにヘリコプターの空撮場面は苦虫をかんだようにされて。だけど、テレビは金にモノを言わすみたいな批判に終始していたら、ドキュメンタリー映画は広がらないよと反論し、早くテレビと映画が融合していくことが起きればいいなと思ってきたんですね。
大:ポレポレ東中野で東海テレビの第1作「平成ジレンマ」(10年、戸塚ヨットスクール事件後の教育現場を追ったドキュメンタリー)を観たとき、今後これが続けば、広がりができると思いました。
■地方勇気づけた東海テレビ映画
阿:そもそも僕らが映画へ入っていったのは、地方のテレビ局で1年かけて作ったものが東海3県で1回ないし2回の放送で終わってしまう。それが悔しくて。これを全国の人に観てもらいたいという表現欲と、わずか300人の組織ならではの利点を上手に生かそうというのもあった。