
阿:僕は、よく「なんで配信に出さないの?」と言われるんですけど、カッコつけて言うと、みんなと同じは嫌だよ。ときには立ち止まることによって、別の価値が生まれるかもしれない。
大:わかります。
阿:振り返ってみると、ミニシアターの人たちが僕たちの映画を育ててくれたんだから、劇場でないと観られないのだというのを守ろう。それに新作がかかると「東海テレビドキュメンタリー劇場」と銘打って過去作の特集上映をやってくれる。これはありがたい。
大:それは素晴らしい。いま会社の中で、阿武野さんの班はどういう扱いになっているんですか? 自局の中にカメラを向けた「さよならテレビ」(19年)以降、局内でハレーションがあるのかなあと思ったんですが。
阿:むしろ、東海テレビに500人ぐらい就職希望の学生がいたとすると、半分くらいが志望動機に「さよならテレビ」を作った局だからという。それによって社内での評価が逆転したんですよね。
大:それはすごいなあ。
阿:「さよならテレビ」を作ったときは局のイメージを毀損(きそん)しただのさんざん言われたのに(笑)。
■バカと言われる真っ正直な監督
──阿武野さんはこれまで常にメディア取材の前面に立たれていたのが、今回の「チョコレートな人々」では極力減らされているそうですね。
阿:樹木希林さんが晩年言っておられたのが「時が来たら誇りをもって脇にどきなさい」。65歳で東海テレビは2度目の卒業になりますので、僕もあと1年ちょっと。それと、くしくも大島さんが最初に言ってくださったように、まず鈴木監督のこのピュアさを受けとめてもらえたらというのと。
先週、大阪に鈴木監督とふたりで行ったんですが、僕は「この映画は、じつは働かせ方改革の話なんです」とメディア対応しながら監督の様子を見ていた。すると帰りのタクシーで鈴木監督が「ぼくは、あまり障がい者のことは言わないほうがいいんでしょうか?」と言うから、「どのように書かれるかは考えなくてもいい。あなたが表現したいこと、作品にかける思いをきちんとしゃべればいいんだよ」って言ったんです。