また、顧客が経営者の場合、海外でのビジネスマッチングなどをセッティングして、プライベートバンカーが通訳を兼ねて終始行動を共にすることもあります。いささかやりすぎかと思われるかもしれませんが、顧客と数日間行動を共にできるチャンスなど滅多にありません。出張のアテンドは顧客の信頼を強固なものにできる願ってもない好機なのです。
◎顧客の話し相手
顧客の人生に寄り添うことが仕事であるプライベートバンカーにとって、顧客からビジネス的な信頼関係を勝ち取ることは当然重要ですが、それと同じくらい重要なのが人間的信頼関係を構築することです。
特に相手が経営者の場合、家族や社員の前ではなかなか弱音を吐くこともできず、悩みを1人で抱えている人も少なくありません。もしくは配偶者に先立たれ、子供たちも独立し、普段は1人で暮らしている富裕層もたくさんいます。
そのような場合、一流のプライベートバンカーは、普段の仕事モードから切り替えて、なかば「友人」として顧客の愚痴を聞くことがあります。
バンク・オブ・シンガポール(BOS)のプライベートバンク部門の実情を暴いた『プライベートバンカー』(清武英利著、講談社)の中でも、若い女性アシスタントが現地に単身で暮らしている富裕層と焼き鳥屋でお酒を飲んでいるシーンが描かれています。
海外のプライベートバンクのジャパンデスクは、日本の相続税を逃れるために現地に10年以上住まないといけない「10年ルール」を実践している富裕層を相手にすることが多いからで、時間を持て余している顧客の相手をすることも立派なサービスの1つなのです。
こうした付き合い方は「日本ならでは」と思われがちですが、スイスにあるような小規模な老舗プライベートバンクは、それこそ家族ぐるみで顧客と付き合うこともザラです。