19年に、念願のトート役を射止めてから、その次の目標は何になったのかと聞くと、「トート役は、たどり着いたと思ったらそれが奥深すぎて、いつまで経っても“目標を達成できた”とは思えないんです」という答えが返ってきた。

「お芝居って正解がないものだし、とくにトートの場合はいろんな俳優の先輩方が演じているものなので、僕なりのトートを作っていかなければならないと思っています。もちろん、現時点でも全力でやっていますが、毎回、『まだまだだな』という思いがあります。目標とする役が来たからといって、それがゴールというわけじゃない。新しい役に出会うたびに、毎回苦しいんだけど、なぜかやめられないのがこの仕事なんです(笑)」

「俳優を続ける原動力になるものは何ですか?」という質問に、少し黙って宙を見つめてから、「わからないです」と答えた。ヨーロッパの音楽家に王子に死神、さまざまな迫力のある役を演じていながら、話し方はおっとりしていて、瞳は子どものように無邪気な光を放つ。

「もし、あるとすれば好奇心みたいなものかもしれないです。毎日、何が起こるかわからなくて、誰と出会って、誰と響き合うかも、挑戦してみなければわからない。そんな現場がすごく刺激的で、『今日はどんなことが起こるんだろう』って、毎日ワクワクしています」

 アーティストとしての顔も持つ古川さんは、昨年に引き続き今年も、ミュージカルコンサートを開催する。毎回違ったゲストを招いて合計10公演。ミュージカルの歴史をたどる旅のようなコンサートを計画中だ。

「以前、アーティストとしてコンサート活動をしていく中で、15分から20分ぐらい、ミュージカル楽曲を披露して、それがかなり盛り上がっていたんです。『お客さんは、こういうのを求めているんだろうな』と思うようになっていた頃、『いっそ、全部ミュージカルソングでやってみよう!』と思ったのがきっかけでした。昨年の4月に1回目のコンサートを開催したときは、自分がホストとしてほぼ日替わりでゲストを呼んで、全てが挑戦だったのですが、いいナンバーをそろえられたせいか、お客さんの手応えを肌で感じることができた。何より楽しかったし、僕なりに自信がつきました。今回は2回目なので、また何か新しい要素を加えて、より満足してもらえる内容にしたいと思っています。ミュージカル初心者の方にも、ミュージカルに興味を持っていただけて、ミュージカル好きにもご満足いただけるように頑張ります」

(菊地陽子 構成/長沢明)

週刊朝日  2023年1月20日号より抜粋

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