この「木綿のハンカチーフ」は、自営業の男性(55)が初めて買ったシングルレコードでもある。

「フタが赤くて本体は白いレコードプレーヤーで、大音量で聞いた。下の階の祖母のところに来ていた三味線の先生が、帰りがけに今日かけたレコードの感想を言っていくのがパターン」

 パートの女性(52)は夏川りみの「涙そうそう」(2001年)を聞くと、亡くなった義父を思い出す。「義父が急死して数日後、愛用していた車を運転していたら、突然カセットテープが動き出し、義父が大好きで繰り返し聞いていた『涙そうそう』が流れた」

 え!

 洋楽からはチャカ・カーンの「I Feel For You」(1984年)。自営業の女性(63)は当時、カフェバーの飲み会で終電を逃したあと朝までディスコで過ごした。女性なら飲み放題食べ放題で高くても1千円程度で、コスパナンバーワンの場所だったそう。

「そんな六本木深夜2時、ひとけのないディスコのフロアにこの曲がシャカシャカ響いてた。女友達と干からびた食べ放題のおすしをつまみながら、のちにバブルと呼ばれる時代の前夜に酔った。楽しかったなあ」

 ほんと、楽しかったなあ。(ライター・福光恵)

※週刊朝日  2023年5月5-12日合併号