冗談抜きでなぜしゃぶしゃぶ店なのか。
「修業する前に中目黒でスナック、その前は広尾のラウンジのマスターをやってました。でも深夜営業の店って、アフターとか色んなお誘いが多いじゃないですか。振り返ると、これまで家族と一緒の時間ってあまりなかった。シャブの件で家族や親戚にもたくさん迷惑かけちゃったしさ。それで、日付が変わる前に帰宅できる業態にしたってわけ」
■特別少年院で読んだ沢木耕太郎の本が人生を変えた
生まれは岡山県北部に位置する鏡野町。中国山地に抱かれ、林業や酪農が盛んな地域だ。
「住むには良い所ですよ。でも物心ついたころからヤンチャ坊主で、中学生で『大和会』っていう暴走族を立ち上げて“頭”(あたま)をしてた俺は浮きまくってた。中学に行かなくなり、家出して向かったのが大阪。餃子店とかでアルバイトしながら、意気がって毎日けんかばかり。で、何度かパクられ、結局、岡山市内の少年院に収容されたんです」
親からも見放されるくらい生活も心もすさんでいた。しかし、院内で読んだ1冊の小説が人生を大きく変えた。
『一瞬の夏』(新潮社)。一度リングを降りた元東洋太平洋ミドル級チャンピオンのカシアス内藤さん(現E&Jカシアス・ボクシングジム会長)が、4年余りのブランクを経て、再び世界王座を目指すさまを描いた沢木耕太郎氏のルポルタージュだ。1982年のベストセラーで、第1回新田次郎文学賞を受賞した名著である。
「カシアスさんと、トレーナーのエディ・タウンゼントさん(故人)の泥臭いけど大きな夢を追う姿がカッコよく思えてさ。大阪時代に見た映画『トラック野郎』の主人公・菅原文太さんに憧れて、俳優になりたいって夢も持ってたから、『まずボクシングでチャンピオンになったら近道じゃないか』って。単純だよね(笑)」
退院後、迷わず上京。世界チャンプを輩出したワタナベボクシングジムの門をたたいた。
“岡山のけんか屋”はすぐに頭角を現し、デビュー後、引き分けを挟んで4連勝。86年の全日本ミドル級新人王に輝いた。そして88年3月、日本ミドル級王座を奪取。翌89年に、赤井英和さん主演の映画「どついたるねん」(阪本順治監督)で念願の俳優デビューを果たした。