官邸を表敬訪問したマイクロソフト創業者、ビル・ゲイツ氏と握手をする石破茂首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
官邸を表敬訪問したマイクロソフト創業者、ビル・ゲイツ氏と握手をする石破茂首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

まともな政策=「悪人」どもが嫌がる政策

 ただし、その場合も、冒頭に引用した先々週のコラムでも取り上げた維新との連立や閣外協力などは、すぐにできるわけではない。

 今は、旧安倍派などの「悪人」がいるから、その反射効果で石破首相が浮上しているが、仮に8月を切り抜けて、秋の臨時国会まで続けたとしても、そこから先は、石破首相が何をするかによって世論の動向はガラリと変わり得る。

 野党の協力を得て進める国民向けの政策としては、消費税減税、給付金、ガソリン税廃止などが中心になるが、これらはうまくまとめても野党の手柄になるだけ。満額回答から少しでも値切れば、逆に石破批判につながる恐れもある。

 その後も、案件ごとに野党の一部の要求を呑みながら政権を運営する綱渡りが続くが、いずれにしても、支持率が上がる要素はあまりない。うまくいっても石破支持率はジリジリと下がるのではないか。そうなると、また、石破おろしの風が吹き荒れることになる。

 石破首相にとっての生命線である世論の支持を得るのは難しいことのように思えるが、実は、簡単なことだ。

 石破首相は、自民党の「悪人」たちが嫌がることをやれば良い。もちろん、彼らは怒り狂って、石破おろしの勢いを強めるだろう。これまでの石破首相を見ていると、それを恐れるあまり、世論が期待していることを封印し、党内の大勢に従って保身に走っていると見られてしまうことが多く、石破氏への国民の期待を裏切ってきた。それが衆参両院での与党過半数割れにつながった要因の一つだ。

 この結果は、「自民党」から見れば最悪だが、実は、国民から見れば決してそうではない。失われた30年を生み出した自民党政治、とりわけ、安倍政治からの脱却がようやく実現しそうだからである。また、長期的に見れば、自民党にとっても悪いことではない。落選議員の多くは、旧安倍派などの議員である。衆参2回の選挙で、これらの「悪人」がかなり除去された。これを「敗北による浄化作戦」と呼ぶ重鎮議員もいる。まだ十分ではないから、次の衆院選とさらには3年後の参院選で「浄化」を徹底して、小さくても「まともな」自民党として復活する方が日本のためだというのだ。

 そう考えると、現状は決して悪い状況ではない。

 もともと、石破氏は、自民党を「まともな」党として復活させようとしてもできない運命にあった。なぜなら、自民党をまともな党にしようとすれば、石破おろしで総裁を追われて何もできずに終わってしまうからだ。

 しかし、今、一縷の望みがでてきた。

 石破氏は、総裁、首相の座を追われる寸前まで来ているが、それを止めているのが国民世論で、しかも、世論は、自民の「悪人」どもを心から嫌っている。自民党を「まともな」党にしようとする政策を推進して彼らと闘う石破氏を見れば、「石破がんばれ」という声が盛り上がり、逆に「悪人」どもに媚びるようなら世論は裏切られたと感じる。

 もう後がない石破氏には、躊躇する暇はない。まともな政策=「悪人」どもが嫌がる政策を思い切り進めるしか道はないと割り切るべきだ。

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