
体を大きくするには食べているだけではだめで、休みも必要だ。選抜優勝後のニュースの中で、全国の指導者を驚かせたのが、横浜の「9時間半睡眠」だ。
「ニュースの反響が大きくて戸惑うのですが、毎日無理やり9時間半寝かせているわけではありません。たまに短いときもありますから」
と苦笑いするのが、高山大輝部長。
「導入したのは今の3年生の代からで、故障者が多かったのでコンディションを優先しようと考えたからです」
実際故障者は減ったようで、「練習の集中力が高まったから」と、捕手の駒橋優樹選手はうなずく。
「たくさん寝ることで気持ちがリセットされて、練習の入り方が違います。1回戦で雨の中断があってグラウンドの状態も悪かったけれど、エラーしなかったのは毎日の集中力のおかげだと思う」

食トレ、睡眠ときて、さらにコンディショニングの新しいトレンドは「リラックス」だ。横浜は5年前に寮に水風呂を設けて、熱いお風呂と20分ずつ交代に入ることを行っている。
「交代浴でリラックスできるのが一番。気持ちに余裕が生まれます」(遊撃手・池田聖摩選手)
自宅生でもリラックスする工夫があった。
「自分でユニホームを洗濯することも大事にしています。親にやってもらわず自立することにつながります」(沖縄尚学・三塁手・安谷屋春空〈あだにや・はるく〉選手)
「お風呂にゆっくり入って30分のストレッチ、それとユニホームの洗濯です」(綾羽・投手・米田良生有〈らいり〉選手)
2人とも洗濯をするようになったのは、それぞれの監督から「自分のことは自分でするように」と申し渡されたのがきっかけとか。

最後に、水風呂のようにお金もかからず、洗濯のような手間もなく、簡単にリラックスして実力を発揮する方法を仙台育英が教えてくれた。
2回戦後の取材時間。2年生の選手がおにぎりを食べ始めた。そのあとバナナも。周りの3年生がゲラゲラ笑っている。
「足がつった選手もいましたから。試合後にすぐエネルギーを補充するのは大事っすよ」
とニコニコしている。「勝手にものを食べて先輩に怒られない?」と私が尋ねても、「先輩は優しいから怒ったりしないっすよ」とまたニコニコ。
この風通しの良さ。仙台育英は二遊間を1年生が守り、3回戦の沖縄尚学戦では15人の選手を繰り出して、今大会屈指の好ゲームをつくり上げた。須江航監督の「全ての選手に成長の機会を与える」という方針のもと、下級生ものびのびと野球ができる。それこそが、チームを強くする秘訣なのだ。
(ライター・神田憲行)