「逃げるは恥だが役に立つ」(TBSテレビ)が社会的なブームになったのは、恋ダンスの波及効果に加え、スマホやネット拡散に最適なダイジェスト動画、タイアップCM、クックパッドや横浜市とのコラボなど、アプローチポイントを増やす努力によるところが大きい。もちろん脚本・演出・演技も優れていたが、高品質でもブームにならない作品がほとんど。エンタメやデバイスの多様化で「良いものを作れば見てもらえる時代ではなくなった」のは間違いない。
しかし、多くのお客さんを連れてきても、「ラブストーリーで老若男女を満足させるのは難しい」と見られていたのも事実だ。そんな難題をクリアできたのは、20~30代の未婚男女だけでなく、専業主婦、シングルマザー、キャリアウーマン、愛妻家、マイノリティなど、あらゆる人生を尊重・肯定した世界観。相変わらず勧善懲悪がコンセプトの作品が多いなか、「本当に視聴者が求めているのはこれではないか?」という気づきを与えてくれた。
ひるがえって、冬ドラマで注目を集めそうなのは、「東京タラレバ娘」。独身女性3人の恋と仕事をクローズアップした作品だが、思い通りにいかない人生ですら尊重・肯定するような描写が見られる。そもそも「こうしていタラ」「ああしていレバ」という少しの後悔と厳しい現実は、年代や婚姻歴を問わず思い当たる節があるもの。たとえば、「東京オリンピックを一人で迎えたくない」というセリフに心当たりがあるのは30歳の女性だけではないだろう。「そうそう」という共感と「そうかな?」という違和感が、反響を集め続けるのではないか。
今後は「逃げるは恥だが役に立つ」のように、脇役にさまざまな立場の人々を登場させタラ……。さらに、その人生を尊重・肯定するような描き方ができレバ……ブームの可能性は高まるだろう。一方、ヒロインを引き立てるだけの脇役だっタラ……。独身女性のストーリーに徹すレバ……熱狂的なファンこそ集められるが、視聴者層は狭くなり、ブームにはならないのではないか。制作サイドの舵取り次第で、どちらも狙えるポテンシャルを秘めている。
もう1点、触れておきたいのは、ポップで自由な演出。ショックを受けるシーンでヒロインが粉々になったり、架空キャラのタラ・レバが大暴れしたり、漫画やアニメに見られる演出を自然な形で採り入れている。同枠では「家売るオンナ」「校閲ガール」に続いて3作連続であり、視聴者には「『水曜ドラマ』らしさ」として定着しつつあるなど徹底ぶりが素晴らしい。
※『GALAC(ぎゃらく) 3月号』より
木村隆志(きむら・たかし)/「ポップで自由」なのは演出だけに留めず、PRの面でも期待したい。現状はTBSテレビが先んじているが、既存の番宣出演だけでなく、タラ・レバを使ったネット展開など、トライできそうなことは多い。