
全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2025年8月25日号にはFIFPRO(国際プロサッカー選手会)アジア/オセアニア 事務総長 辻翔子さんが登場した。
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小学3年生まで過ごしたオランダ・アムステルダムに再び暮らし始めてから、6年が経つ。その内の半分以上在籍しているのが、国際プロサッカー選手会のFIFPRO(フィフプロ)だ。
企業に労働組合があるように、プロサッカー選手にも、権利や待遇を守る「選手会」が存在する。各国の選手会をまとめ、選手の立場に立つ同本部はオランダにある。
40人ほどの職員の出身地は約20カ国と多岐にわたる。だが、その大半を占めるのはヨーロッパ人だ。設立から60年が経つ国際組織で、初のアジア人職員として採用された。
これまで最も高い壁は、「採用時」と振り返る。EUパスポートがなく、多くの職員が持つ「元プロサッカー選手」のキャリアパスも持たないビハインドの立場で、自分の有用性を熟考した。
「元々ジャーナリスト志望でした。前々職ではスペインで選手のインタビューを多く担当し、選手への接し方を理解していました」
国際機関にもかかわらずアジア人職員が一人もおらず、アジア人選手の課題が拾えていない懸念を訴えた。そうして採用に至ったが、「アジアは非常に多様で、各地域で特性があるので、私を雇ったからアジアはクリア、とは思ってほしくない」とも添える。
今年6月には、年1で開催されるアジア/オセアニア総会が、13年ぶりに日本で開かれた。今回、主なテーマとして掲げた「アジア人差別」についての発表内容などを半年かけて準備した。
当日、関係者約100人が一堂に会した場で、流暢な英語で司会を務めた。ビジネスで使えるのは日本語、英語、スペイン語、「フランス語が中級ぐらい」と言う。
サッカーも「共通言語」と話す。総会の際も、職員全員でサッカーをする機会を設けるのが慣習だという。
「サッカーを通して自己表現する人もいて、新たな一面を発見することもあります」
一時帰国時、大阪・関西万博に足を運んだ。「どのパビリオンを見ても、誰かの顔が浮かんだ」と破顔する。「日本と世界の架け橋になりたい」との思いを実現している。(フリーランス記者・小野ヒデコ)
※AERA 2025年8月25日号
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