そしてこの法律によれば、社の重要事項を決定する権限は、「職員」ではなく「社員」つまり共同通信で言えば、「社費」を出している地方紙・ブロック紙にある。
にもかかわらず、このグーグルとの契約は、加盟社に事前にはかられることなく、3月13日に地方紙・ブロック紙の社長つまり共同通信の「社員」が出席する理事会で、「特別報告」の形で突然報告されたにすぎない。つまり契約をすませた後に報告され、翌日には発表されている。
しかも、グーグルとの秘密保持契約があるとの理由で、理事会では契約の期間、契約の額などは当時の共同通信社長の水谷亨(現相談役)から明らかにされず、基本、翌日の記者発表と同じことが報告されたにすぎない。
たとえば共同通信とヤフーが共同出資してたちあがったノアドットというプラットフォームの際には、事前に加盟社に対して丁寧な説明をし、2015年2月の理事会ではかられたが、そのときは反対もあって、3月の理事会でようやく承認をされたという経緯がある。
なぜ、共同通信は加盟社の承認をえずにグーグルとの契約を結んでしまったのか?
あの遠い日に、共同の役員がまだ学生だった私にさとしたように、共同通信は地方紙の黒子ではなかったのか?
この理事会でグーグルとの契約について質問をした社は私が確認するかぎり二社。そのうちの一社が京都新聞で、社長の大西祐資(ゆうじ)は3月の理事会で質問をし、4月の理事会でも再度この契約について質問をしている。
京都新聞の大西祐資といえば、社主家で大株主の相談役が長年にわたって不当な利益をえて社の経営を壟断(ろうだん)していることに、社内の有志とともにたちあがり、この相談役の所有株をすべて買い取り、不当に得た収入約5億円の返還をもとめた訴訟を指揮し勝ち取った記者出身の不屈の経営者である。
京都新聞の電子有料版シフトを2022年から始めたのも大西で、プラットフォーマーだよりではなく、自社のコンテンツをいかに有料で読ませるかについて創意工夫の経営をしている経営者だ。
次回は、その大西に直接聞く。
※AERA 2025年8月25日号
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