やなせたかしさん、小松暢さん夫妻をモデルに、苦悩と荒波を越えて「アンパンマン」へ至る軌跡を描くNHK連続テレビ小説「あんぱん」(毎週月~土曜午前8時NHK総合ほかにて放送中)。第20週(96~100話)は、嵩(北村匠海)が漫画家として順調とはいえない日々を送る中、のぶ(今田美桜)は代議士秘書をクビに。それから7年の月日が流れ、嵩はある出会いをして……という内容だった。
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代議士の鉄子(戸田恵子)の秘書ののぶは、許可なく児童福祉施設職員との面会を組み込むなど「何があっても逆転しない正義」を探したくて働いてきた。だが、鉄子との方向性の違いがあらわになり、秘書を外されることになる。一方で漫画家として独立したものの、仕事はない嵩(北村匠海)も、のぶに心配させまいと嘘のスケジュールで予定を埋めている。
「嵩さん」と呼び始める、のぶ
互いの苦境を知らないのぶは、嵩の母・登美子(松嶋菜々子)の屋敷を訪ねる。登美子は母の勘で、「嵩はそういう見栄っぱりなところだけ私に似ちゃったのね」と、嵩も嘘をついていることを見抜く。ここで浮かび上がるのは、「やさしい嘘」だ。のぶは嵩を思って黙り、嵩はのぶを不安にさせまいと嘘で隙間を埋める。
かつて登美子が嵩らの前から去ったときに差していた白いパラソルの思い出も、その系譜にある「守るための嘘」だ。のぶが「嵩さんは、あの日お義母さんは泣いていたんじゃないかって」と伝えると、登美子が一瞬息を詰めて、ゆっくりと涙を流す。その表情の変化が、白いパラソルは涙を隠すためのものだったと物語る。
専業漫画家に嵩がなったことで、のぶは「嵩さん」と敬称で呼び始める。敬意と変わらぬ親しみを込めた、愛情深い呼び方への変化だった。八木(妻夫木聡)にも「大衆に媚びるな。お前らしいものを描け」と励まされる嵩だが、自分らしさとは何かが分からず、迷走を続ける。
7年が経った昭和35年。暮らしぶりは少しよくなる一方で、嵩はまだ漫画家として売れていない。恋に臆病で、人の陰に隠れがちだったのぶの妹・蘭子(河合優実)は、会社員を続けながら映画雑誌で辛口の批評を書き、少しずつ評判になっていた。