東京拘置所。医師へのパワハラや人事権の乱用が常態化しているという。本誌の取材に「公益通報があったかの有無も含め、お答えは差し控えさせていただく」(総務部調査官)
東京拘置所。医師へのパワハラや人事権の乱用が常態化しているという。本誌の取材に「公益通報があったかの有無も含め、お答えは差し控えさせていただく」(総務部調査官)
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 東京拘置所では、パワハラや人事権の乱用で医師らが退職に追い込まれた。今年6月まで東京拘置所で勤務していた男性医師が、その実態を明かす。AERA 2025年8月11日-8月18日合併号より。

【写真】金沢刑務所。本誌の取材に「施設運営上の観点からお答えは控えさせていただく」

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 東京・小菅にある東京拘置所。この約2年間で、4人の医師が退職に追い込まれ、1人が適応障害で休職し、5人の非常勤医師が雇い止めとなった。

「少しでも自分の方針に従えない者が次から次へと解雇されています」

 そう話すのは、今年6月まで東京拘置所で勤務していた男性医師(50)だ。男性医師によれば、23年7月、別の刑務所から医務部長が着任すると、職場の環境が一変。パワハラや人事権の乱用が常態化するようになったという。

 例えば、拘置所内で収容者が死亡した時、ある内科医が検視に立ち会わず帰宅した。そのことで後日、医務部長は職員らが集まった朝礼の場で「こちらの指示に従えない者、方針に従えない者は辞めてもらうしかない」と内科医を叱責。だが、実際は医務部長自身、内科医に検視に立ち会わず帰宅することを許可していた。しばらくして内科医は、大阪の医療刑務所への異動を命じられた。本来、異動は2カ月前に内示する慣例があるにもかかわらず、1カ月前の通知だった。内科医は転勤に応じられず退職した。他にも、ある女性医師は医務部長から過剰な勤務を押し付けられ精神的に追い詰められた結果、適応障害を発症し、休職を余儀なくされたという。

 パワハラや人事権の乱用が続く中、先の男性医師は他の医師らと、昨年11月から今年2月にかけ計5回、法務省矯正局への公益通報を行った。関東矯正管区の職員が一度だけ聞き取り調査に訪れたが、最終的な結果は「医務部長の言動に不法行為はなかった」と判断されたという。

 この間も、医務部長は、非常勤医師や非常勤薬剤師、看護師らに「予算不足」を理由に雇い止めを通告したりした。そして先の男性医師に対して、公益通報の最終結果が出た1週間後の5月30日、7月1日付で埼玉県川越市にある川越少年刑務所への転勤辞令が下された。理由は「施設運営上の都合」。具体的な説明は一切なかった。

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