同じベッドでお互いの妄想を押し付け合う
そんなわけで私が会ったベテランの方を始め、同店の女性セラピストたちは男性とのセックスで性に対してネガティブな気持ちになっているお客たちの心を癒すべく、刺激的なプレイに精を出すよりも、とにかく嫌がることをせず、大切に優しく接することを心掛けているのだそうです。それだけ男女のセックスには誤解や分かり合えないことも多く、射精にむかって一目散に駆け出す男性たちのやや強引な行為に辟易(へきえき)としている女は多いということなのだと思います。
必ずしも男だけが悪いわけではなく、セックスに関してコミュニケーションをとることが野暮とされる日本語文化にも、それに甘んじて要望を口にしてこなかった女にも多分に責任はあるのでしょう。それを差し引いても、勃起をセックスの始まり、射精をセックスの終わりと信じて疑わず、自分のペースで事を済ませることにあまり疑問がない男は多すぎる気がしますが。
アダルトビデオを始めとする娯楽のためのエロ・コンテンツでセックスを学んだ男と、少女漫画やトレンディドラマで恋愛を学んだ女が付き合い、同じ部屋でお互いの理想を押し付け合い、同じベッドでお互いの妄想を押し付け合う、恋愛とセックスは大変難儀なものであるに違いありません。
だからこそ、本来はお互いが何を理想として何を妄想し、何が気持ち良くて何が気持ち悪いのかを知らないことには、どちらかが我慢し、我慢させているほうはその自覚すらない、という不幸な状況が続きます。気持ちがいいわけではないのに強く触って来たりこちらの都合関係なくガンガン突いて来たりする男にも、必ずしも悪意があるわけではなく、セックスは男が射精するためにあるわけではない、という知識がないだけだからです。