生きるために弾く!

素敵な装丁にしてくださって嬉しい。ちゃっかりローズと名前が並んで目がハート!(写真/本人提供)
素敵な装丁にしてくださって嬉しい。ちゃっかりローズと名前が並んで目がハート!(写真/本人提供)

 それは私には目からウロコの考え方であった。ピアノを練習していると「うまくなる」ことばかりに囚われてしまう。だが50を過ぎた人間がいくら頑張ってもそうそう上手くはならないわけで、そのどうにもならぬ事実を悲しく思わぬ日はなかった。でもなるほど本当に大事なのはピアノを弾くことが人生を輝かせてくれるってことで、上手い下手なんてどうでもいいのだ。

 この本には、そんなローズの考え方がやさしくユーモアたっぷりの言葉で綴られている。そして全くピアノに触ったことがない人でも、1日2小節ずつ、6週間でバッハの名曲が弾けるように、ローズがすぐ隣で励ましてくれるかのように優しく丁寧にガイドしてくれる。その全てに、音楽を演奏することで、今というこの困難な時代を地に足をつけて生き延びていこうじゃないかという、ローズの真摯な想いが詰まっていて、私は本当に胸を打たれた。で、無謀にも翻訳という未知の作業に手を染めたのである。

 そもそも翻訳って何なのかってところからのスタートだったが、兎にも角にも頑張りました。やればできる! でもピアノだけはそうもいかないんだよね……。

AERA 2025年7月21日号

こちらの記事もおすすめ 「あらゆる葉っぱを使う先人の知恵 “贅沢”は2種類あるのかもしれない」稲垣えみ子
[AERA最新号はこちら]