東京に家は買えない

 先の記事で、東京から地方に転勤し、地方での生きづらさを語った女性(50)も今、自身の終の住み家を考えているところだ。

「東京は独身が楽しめる場所だけど、高すぎて家はとても買えない。かといって、今から地元に帰るという選択肢もない。今はある程度、利便性が高い地方都市に家を買うのもありかなと考えています。会社は転勤を機に私が辞めると思ったかもしれないけど、私は独身だし、絶対辞めない。少なくとも60歳までは会社にしがみつくつもりです」

 女性はこの先も、「独身を貫こう」と思っているわけでは決してない。たまたま独身のまま50歳を迎えただけで、この先に何があるかわからないという期待も持っている。

「周りでも、60代と50代で素敵な大人婚を挙げた人がいて、純粋にいいなって思いました。人生まだまだ何があるかわからない。そんなふうに今後の人生も楽しめたらいいなと思っています」

「生涯未婚率」に傷ついて

 50歳の時点で一度も結婚したことがない人の割合を、“生涯未婚率”と呼ぶ表現は、今も残っている。だが、「生涯未婚と決めたわけではない」というツッコミも、複数の単身者から聞いた。50歳を超えての結婚も決して珍しくはない現在であるはずだが、「社会が勝手に決めた、こういう何げないネーミングに、結構傷つくものなんですよ」とも。

 単身世帯が増加する日本社会において、シングルであることはもはや、珍しいことではない。稼ぎ頭の夫と家事・育児を支える専業主婦という従来型の世帯モデルは、とうに昔の話だ。だが、社会制度的にはまだまだ現代のあり方に追いついていないのが現状だ。

 前出の山田昌弘・中央大学教授は言う。

「シングル世帯、離婚した人、LGBTQ然り、あらゆる家族形態の人がいる現在、いわゆる従来型の世帯モデル以外のあり方が多数派になっていくことが予想されます。日本社会は、“今まで通りで何とかなってきたのだから”と、制度改革も先送りにしてきた。ですが、現状を見れば、改革が必要な時期にいるのは明らか。立場や属性による不公平感を解消するためにも、本腰を入れて改革に取り組むべき時にきていると思います」

(ライター・松岡かすみ)

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