
「カルト」と聞くとちょっと身構えてしまうかもしれない。ただ、Uber、アップル、Amazon、Nike、TikTok、コカ・コーラなど世界を創り変える覇者達からマーケティングを任されるイギリスの起業家、スティーブン・バートレット氏は「最も優れたスタートアップは、わずかに控えめなカルト」と指摘する。バートレット氏が直接体得した仕事と人生に効く33の重要原則をまとめた『執行長日記 THE DIARY OF A CEO』(サンマーク出版)から、「カルト的精神を培え」を紹介する。
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「スタートアップとはカルト宗教だ」
ピーター・テイール(ペイパル共同設立者)
「クールエイドを飲む」(「むやみに信じる」を意味する慣用句)という表現の由来をご存じだろうか?
とある集団自殺事件から生まれたこの言葉は、集団思考の究極の表現だ。
カルト宗教「人民寺院」の教祖ジム・ジョーンズは、1978年に信者を洗脳し、世界の終わりが近づいていると信じこませた。そしてある日、彼に言われるがままに、女性や子どもを含む900人以上の信者がクールエイド(粉末ジュース)にシアン化合物を混ぜたものを飲んで命を絶った。
ビジネスにおける「カルト的傾向」は悪ではない
カルトは強欲で邪悪、人を巧みに操り、信者を洗脳して支配する。つまり、信者が自分で考えるのを阻止するタイプの指導者が求められる。それに対して、目まぐるしく変化する、予測不可能な混乱した世界と渡り合う現代の企業には、自分で考えることができる、あらゆるレベルの人材が必要だ。現代のリーダーにとって最も望ましくないのは、自律的思考に欠ける従業員だろう。
ジム・コリンズが画期的な著書『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(日経BP)で主張するように、従業員が特定の価値観に対してカルト的な傾倒を示すのは悪いことではない。コリンズは、先見性のある(ビジョナリー)指導者は、従業員の労働倫理、理想、指示どおりに動く能力だけに頼るのではなく、意図的にカルト文化を奨励していることを発見した。
