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 先週、飼いネコの治療にあたっていた三重県内の獣医師が死亡していたことが、報じられました。ネコはマダニが媒介する感染症にかかっていたとされ、獣医師も感染した疑いがあるとのことです。

SFTSとはどんな病気か

 今回問題になった感染症は「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」といい、SFTSウイルス(SFTSV)によって引き起こされます。

 ウイルス性出血熱の一種で、かかると発熱や消化器症状(食欲不振、嘔吐、下痢など)があり、重症化すると出血傾向を伴うことも。発症した場合の人間の致死率は10〜30%と、とても怖い感染症です。

 ウイルスを媒介するのはマダニで、特にフタトゲチマダニ、ヤマトマダニ、タカサゴキララマダニなどが知られています。これらのマダニにかまれることで、ウイルスが人や動物に感染します。

 SFTSは中国で発見され、その後韓国や日本、台湾など、東アジア地域で報告が相次ぎました。中国では年間1000人以上、韓国では100〜200人、日本では60〜120人前後の発症が続いています。

 日本では2013年に山口県で初めて報告されて以降、主に西日本(山口、広島、愛媛、宮崎、鹿児島など)を中心に広がっています。

 SFTSVを媒介するマダニは野生動物に寄生し、自然界の中でウイルスを循環させていると考えられています。

 実際、地域によりますが、野生のニホンジカやイノシシでは15〜40%以上のSFTS抗体陽性率(SFTSVに感染したことがあることを意味する)が報告されていますし、タヌキやアナグマ、ハクビシンでも10〜30%程度の抗体陽性率が確認されています。

 山登りやハイキングでシカに出くわすことはよくありますし、タヌキは市街地でもしばしば見かけます。つまり、SFTSVは自然界に広く定着しており、我々の身近な場所に潜んでいるというわけです。

ダニだけでなく動物からも感染

 怖いのは、感染ルートはダニだけでないという点です。実際、SFTS患者のおよそ半数はダニにかまれておらず、感染した動物との濃厚接触や、糞便からの感染が原因と考えられています。

 今回、感染したネコから獣医師が感染して亡くなったとの報道がありましたが、2017年にも感染した野良ネコから獣医師が感染し、死亡するという事例が報告されています。このほか、ペット介護中の飼い主への感染例も確認されています。

 動物医療従事者は、つねに感染リスクにさらされています。宮崎県と長崎県の調査では、動物病院スタッフにおけるSFTS抗体陽性率は2〜4%程度で、一般市民の0%に比べて高い結果でした。

■ペットのダニ対策が重要

 人間がSFTSにかからないためには、動物への感染を防ぐことが重要で、外に出る機会のあるイヌやネコには、マダニが寄生しないようダニ予防薬を使うことが大切です。具体的には、首のうしろにたらすタイプのスポットオン製剤などが有効です。

 野山や草むらで散歩した後は、毛をかき分けて皮膚をチェックし、マダニがついていないか確認してください。

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