
2020年2月。3711名を乗せた豪華客船ダイヤモンド・プリンセスで日本初の新型コロナウイルスの集団感染が発生。災害派遣医療チームDMAT(ディーマット)の結城(小栗旬)と真田(池松壮亮)、厚労省の立松(松坂桃李)、医師の仙道(窪塚洋介)らは未知のウイルスに立ち向かうが──!? 映画「フロントライン」の関根光才監督に本作の見どころを聞いた。





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コロナ禍はすべての人に強い痛みを伴う出来事でした。「忘れて前に進みたい」という気持ちもわかる。でもどこかで「それでいいのか?」と思っていたんです。「あの経験はなにか大きなことを教えてくれているのではないか?」と。
本作の脚本に出合って「事実は小説より奇なりの極み!」と驚きました。モデルとなった方々もいる事実に基づく物語。でも僕はあの船内で医療に従事していたDMAT(ディーマット)の存在を知らなかったし、テレビやYouTubeの情報をただ鵜呑みにしていた。自分が傍観者だったという自戒の念とともに、できるだけ多くの人にこの事実に触れてもらいたい、と参加を決めました。
本作にはDMATが監修に関わってくれています。DMATは有志の医療従事者が自ら挙手して参加する医療チームです。普段から過酷な救命医療の現場で人命を救っているのに「もっとできることがある」と最前線に行く。そしてそれをみなさん当たり前にこなしていく。先の能登半島地震からその存在が少しずつ発信され、認知されてきていると思います。

僕は2011年の震災と福島原発事故から「映像」の持つ力や責任を考え直し、社会問題を扱ったドキュメンタリー制作も始めました。しかし政治や社会を語る場ではどうしても意見が極端に振れ、お互いの立場をフラットにして対話する姿勢が欠けていると感じます。それを続けているとかなり短いスパンで社会は行き詰まってしまう。本作も「誰が善で誰が悪だ」ではなくできるだけフラットに「あなたはどう思いますか?」と問いかける映画にしたいと制作しました。誰もがあのときの自分を思い返し、その情報は本当か?を疑い考える。そんな対話のきっかけになってくれればと思います。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2025年6月16日号
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