2020年からファミリーマートのCMOに就任し、「ファミマル」をはじめ数々の話題となる商品・キャンペーンを仕掛けている足立光氏(撮影すべて:東川哲也/朝日新聞出版写真映像部)
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 P&G、日本マクドナルドなどを経て、現在ファミリーマートのエグゼクティブ・ディレクターとして、CMO 兼 マーケティング本部長、CCRO 兼 デジタル事業本部長を務める足立光さん。
 ロングセラーとなっているバイロン・シャープの『ブランディングの科学』発売時から注目し、2025年4月に発売された新刊『マーケティングの科学 セオリー・エビデンス・実践で学ぶ世界標準の技術』もいち早くレビュー。伝説のマーケターがおすすめする同書のポイント、そして現代のマーケターに求められる「資質」を解説する。

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『マーケティングの科学』のユニークな3つのポイント

足立氏は現在ファミリーマートにおいて新規事業やデジタル事業を統括している

 私がこの本をおもしろいと思ったポイントは大きく3つあります。1つ目は章立てがとてもユニークなことですね。

 第1章が「マーケターに求められる資質と仕事」なんですが、マーケティングの本でこの内容から始まるものは見たことがありません。3章の「指標の重要性」、5章の「マーケティング環境」、6章の「セグメンテーションとターゲティング」、8章の「小売業のフィジカルアベイラビリティ」など、他のマーケティング本ではあまり大きく扱わないテーマを章で取り上げている点もユニークだと思いました。著者のバイロン・シャープ氏が、何を重視しているかが反映されていますね。

 2つ目は掲載されている事例の豊富さです。オーストラリアのものが多いのですが、新しい発見がたくさんありました。我々の身近なブランドではないので、すんなりと頭に入らないかもしれませんが、企業だけではなく公共団体なども取り上げられているのが新鮮でした。 

 私は事例というものには、企業の大小は問わず意味があると思っています。日本やアメリカの大企業の事例は皆さんもよく目にすると思いますが、本書にはまったく知らないケースがたくさんあり、多くの学びがありました。

 そして事例を示して、どうすべきかを読者に考えさせる、いわゆるケーススタディの方法もおもしろいと思いました。マーケティングには正解がないものがたくさんありますからね。読者が、自分自身で考えることを促す本だと思いました。

 3つ目はとにかくいろんなものをバッサリ言い切ってしまっているということですね(笑)。詳しくは本書を読んでいただければと思いますが、たとえば「市場シェアを第一の目標とする企業は利益が少なく、倒産する可能性が高い」、「ブランドの好き嫌いがブランドの行動に及ぼす影響は低い」などなど、世間一般で当たり前と思われていることを「そうではない」とバッサリ言い切っています。

 他にも「顧客価値(ライフタイムバリュー)」「過去の購買データの大規模なデータベースに基づいたマーケティング」「マーケティング・ミックス・モデリング」などに対して、とても客観的に評価しています。

 科学的根拠がないことに関して、「これはない」とはっきりと言えてしまうのはすごい。ここが本書のいちばんおもしろいところかもしれませんね。業種によっては耳の痛い話もあると思いますが、それも含めて大事だと思っています。重要なのはその指摘を理解した上で、何をするかという話ですから。

 これらの3点は日本で売られているマーケティングの本とはまったく異なる、本書最大の特徴と言えるでしょう。

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