舞台はナチスドイツ占領下のフランス。物語はドイツ人少年兵とフランス人少女の視点から交互に語られる。一場面は極めて短く、スイッチバックが激しい。複数の物語が同時に進行し、一瞬の邂逅を迎える。
 両国どちらにとっても暗く困難な状況で、間違いを犯さないことのほうが難しい。人々は皆なにかしらの罪の意識を抱え苦しむ。暗いほうへ流れに身を任せれば何倍も楽かもしれない。何も考えずに。しかしそこで必死にのみ込まれまいと手を伸ばし、光のほうへ生きようとした人々が、この小説では描かれている。
 そのすべての人々の幸せを願わずにいられない。どうか、どうかと半ば祈りながらページをめくっていくうちに、物語は終わりを迎えてしまった。ピュリツァー賞受賞の本作は、間違いなく今年一番の良書だ。 (後藤明日香)

週刊朝日 2016年12月30日号