
すべての作品に全力で向き合う。だが、映画「国宝」には最も多くの時間をかけた。主演の吉沢亮さんは、「歌舞伎の女形」という難易度の高い役柄にどんな思いで挑んだのか。AERA 2025年6月9日号より。
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表紙の撮影が行われたのは、カンヌ国際映画祭から帰国した翌日。「時差ボケ気味です」と口にしながらも、カメラに向かうと穏やかな瞳が一転、力強い眼差しへと変わった。
主演を務めた映画「国宝」が今年5月に行われたカンヌ国際映画祭の監督週間部門に選出され、初めてカンヌの地を踏んだ。演じたのは歌舞伎の女形、立花喜久雄。原作は吉田修一、監督は李相日。難易度の高い役柄に挑むにあたっては、二人の存在が大きく影響していたという。吉田の同名小説を原作に李監督が映画化した「悪人」(2010年)と「怒り」(16年)は、一人の観客として向き合っていた。
「20代前半で本気で芝居をやりたい、と思い始めた頃に一番刺さった作品だったんです。『こんな作品に出てみたい』『こんなお芝居をしてみたい』という、役者としての強い憧れがありました」
「怒り」はオーディションに参加していたが、監督の目に留まることはなかった。
「『李監督は、僕に興味ないんだろうな』。そんな気持ちになり、どこかトラウマのようにもなっていました」
複雑な思いを抱えていた先に届いたオファーに対しては、大きな喜びとともに「なぜ、僕なのだろう」という思いもあった。喜久雄という人間に向き合った期間は、歌舞伎の稽古を含め約1年半。撮影の途中、「頭で考えすぎてはいけない」「ト書きにとらわれてはいけない」と台本を読むことをやめ、関西弁の音声指導用にもらっていた音でセリフを確認するよう切り替えた。「もう、その場の生の空気で動くしかない」と。
カンヌ国際映画祭での上映後、客席から「KIKUO!」と声が上がった。俳優・吉沢亮は「立花喜久雄」として、確かにスクリーンのなかに生きていた。
(ライター・古谷ゆう子)

※AERA 2025年6月9日号
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