私が代表を務める新外交イニシアティブ(ND)では、5月末に提言「トランプ政権とどう向き合うかー求められる日本政治の胆力ー」を発表した。そこでは、日本が米国に対して地位協定改定を求めたり、米軍駐留経費増加の求めに躊躇したりした場合には、トランプ氏が「それなら米軍を引き上げる」と言うかもしれないが、であれば、米国の世界戦略にとって重要な資産である在日米軍基地について「手放したいならどうぞ」と切り返せ、と提言している。

 日本において戦後初めて、程度の差はあれ、「米国離れ」が現実的な色合いをもって安全保障の議論の中で検討されるようになっている(選択肢B)。もちろん、その後の国家像の議論が極めて重要である。日本自身の防衛力拡大論が声高に叫ばれ、核武装の検討すら口走る政治家の発言も耳にする。このような自国の軍事力の大幅な拡大路線(選択肢B1)を行くのか、あるいは、経済力も含め国力の低下が著しい日本の現実もふまえて、防衛力を現状維持しながら外交を重視するのか(選択肢B2)、これは極めて重要な分かれ道であるが、本稿の主題とは異なるので別稿に譲る。

新外交イニシアチブ作成

 トランプ2.0の誕生で、世界は大変動期に突入した。

 トランプ政権は覇権国争いのライバルである中国に対しては強硬な戦略を変えず、日米同盟はその戦略の中心にあることから、現在のところ、日本は欧州ほどにはトランプ2.0による安保政策の変化の影響を受けてはいない。

 しかし、トランプ政権の政策は一過性のものではなく、米国自身が変化したことによるものである。従来の国際秩序の下では米国の富が国外流出するため、自由貿易や他国の防衛への過剰な関与や国際援助を止め、今後は米国の利益を優先する、という考え方に基づいており、この傾向はトランプ政権以後も米国政治の底流として継続するだろう。それゆえ、多くの人が米国はもう元には戻らないと考えており、であれば、この世界の地殻変動も止まらないだろう。

 思えば、ASEANは、当初は反共を旗印に結集した集合体で、米国の同盟国も含む米国寄りの国々の集まりであった。しかし、この10年、いつのまにか中立の立場をはっきりと掲げる存在になっていた。フランスも今回の変化には自らが一番驚いているかもしれない。

 日本も、気づけば「どちらの側にもつかない」が当たり前になっていた、そんな将来が近く来るのかもしれない。

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