車いすに乗ったまま乗り降りが可能なように、車体の後部からスロープが出せる仕様になっている福祉車両(写真 江利川ちひろさん提供)
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「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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 先週、神奈川県にある横浜市立平戸小学校で、6年生の総合の授業でお話しをする機会をいただきました。テーマは「インクルーシブ」と「アクセシブルデザイン(製品や環境をさらに利用しやすくなるように考えたもの)」です。

 担任の先生は総合の授業にとても力を入れている方で、昨年度は、この小学校と同じ名前の長崎県平戸市にある小学校へ連絡をして、共同プロジェクトの立ち上げを呼びかけたそうです。そして「平戸サミット」としてお互いの地域のことを調べたり、栄養士さんがそれぞれの郷土料理のレシピを交換して給食のメニューづくりをしたりしたとのこと。スケールの大きさにとても驚きました。そんな素敵なクラスに呼んでいただけることを嬉しく思い、即決でお話をお受けすることにしました。

 今回はこの授業のことを書いてみようと思います。

子どもたちを巻き込んで

 先生が今年度の総合の授業のテーマを「インクルーシブ」にした理由は、ご自宅の近くにインクルーシブ公園があり、その公園を訪れた時の話をクラスで伝えたことがきっかけだったそうです。そしてそこからユニバーサルデザインやアクセシブルデザインにつながったようです。お子さんたちは、まだインクルーシブに関する知識がほぼないとのことだったので、私が一方的に話すよりも一緒に考える時間を大切にしたいと思いました。

障害の有無にかかわらずみんなが楽しめるよう作られた東京・世田谷区の砧公園のインクルーシブ遊具です。小学校での授業では、いくつかのインクルーシブ公園の写真を見ながら、遊具に込められた意味をみんなで考えました(写真 江利川ちひろさん提供)

 私は普段は大人や大学生向けにお話しをすることが多いので、小学校での授業は久しぶりです。とにかく「飽きさせない」と「クラスの子どもたちを巻き込む」をモットーに、アクティブな構成をいろいろ考えました。

 授業当日。「じゃんけんで勝った」というクラスの代表の男の子が校長室へ迎えに来てくれました。教室に入るとみんなニコニコ顔で迎えてくれ、クラスの良い雰囲気が伝わってきました。

 はじめに簡単な自己紹介をした後、インクルーシブという言葉の意味や障害特性について少し説明をする時間をもらいました。その後は、車いすに乗っている人に会ったことのあるお子さんに、そのとき見た様子を聞かせてもらったり、写真を見せて「これ知っている人いる?」と聞き、手を挙げてくれたお子さんに説明をお願いしたりしながら少しずつクラスに打ち解けていきました。

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