グランド・スーパーカート:旧高千穂鉄道跡地を利用した、往復30分の列車の旅。トンネルを抜けた先に、高さ105メートルの高千穂鉄橋からの絶景を楽しめる(写真:高千穂あまてらす鉄道提供)

 最大の見どころは、高千穂鉄橋を渡る体験だ。鉄橋の高さは、圧巻の105メートル。谷底の景色を眼下に、屋根のないカートで風を浴びながら進むスリルと爽快感は全国でも唯一無二。この観光鉄道は地域再生のシンボルにもなっていて、観光客の誘致に大きく貢献。乗車人数は右肩上がりに伸び昨年度は、12万人を超え、人気の観光スポットとなっている。

 高千穂あまてらす鉄道は、地元の有志が立ち上げた。総務主任の飯干泉さんは言う。

「鉄道は地域の宝です。将来また、鉄道として復活させることが目標です」

地域経済に貢献

 中国地方の山間部を走っていた「JR三江線(さんこうせん)」の跡地を活用した挑戦にも、注目が集まっている。同線は利用者数の減少などから18年に全線廃線に。今は、島根県境に近い宇都井駅や口羽(くちば)駅(島根県邑南町、おおなんちょう)一帯でトロッコ体験ができる。

 この「三江線トロッコ」を運営するのは、地域づくりを目指す地元のNPO法人「江(ごう)の川(かわ)鐵道」だ。同法人事務局の佐々木創(そう)さんは、「三江線の廃線を“負の遺産”としてではなく、お客様に喜んで頂ける地域のコンテンツとして成立させることが我々にとってのチャレンジ」と話す。これを長い目で捉えた時、若者の就職先の一つになるかもしれないし、地域経済への波及効果に貢献するコンテンツに育つ可能性もあると。

三江線トロッコ:中国山地の合間を、トロッコがコトコト走る。地面が近く、線路の接触面の振動がダイレクトに伝わり、迫力も満点だ(写真:江の川鐵道提供)

「いずれにしても、小さな島国の中で、使われなくなり“空いている場所”の価値がこのまま放置されるとも思えません。そうした可能性も視野に入れながら、トロッコを走らせることでもう一度地域に賑わいを取り戻す努力を続けていきたいと考えています」

 廃線は終わりではなく、地域の新たな物語の始まりでもある。使われなくなった線路がいま再び、人と人、過去と未来をつなぎ始めている。

(編集部・野村昌二)

AERA 2025年5月26日号

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