レンジャー養成訓練を終え、帰還式に参加する前田さん(写真左)

部屋に戻るとベッドがひっくり返されていた…

 訓練中に集合に遅れた反省として、顔の下に汗で水たまりができるほど腕立て伏せをさせられることもあった。「いかなる状況でも任務を遂行する精神力を養う」という名目で、訓練を終えて自室に戻ると、ベッドがひっくり返り、ロッカー内の荷物が外に放り出されている“台風”と呼ばれる慣習もあった。

 前田さんはこう話す。

「レンジャー訓練の本来の目的はゲリラコマンドの技術を学ぶことであり、延々と掃除をしたり、部屋荒らしに対処したりすることではない。訓練外での消耗が激しく、結果的に最悪のコンディションで訓練に臨み、パフォーマンスが下がるのは本末転倒ではないでしょうか?」

 レンジャー養成訓練中止の背景について、陸自の広報担当者に問い合わせると、

「現代戦に対応できるよう教育内容を見直すことが主な目的であり、当初公表の予定はなかったが、報道を受けて対外的に発表することにした。近年死亡事故が相次いだことは事実だが、安全管理体制に問題があったのかは調査中」

 との回答があった。

「候補生は、自衛官の中でも体力気力ともに非常に優秀な人たちが選抜されている。レンジャーという“高み”を目指す彼らが、体がぶっ壊れても当然のような環境のせいで、適切な訓練を受けられない状況は見直すべきだと思う」(前田さん)

 訓練の現場を体験してきた元レンジャー隊員の言葉は、重く受け止められるべきだろう。

(AERA編集部・大谷百合絵)

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