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 1938年、フランス。モデルから写真家に転向したリー・ミラー(ケイト・ウィンスレット)の日常は、ヒトラーの台頭によって一変する。やがて戦争が始まり、ナチス政権の残虐行為を世に伝えようと戦地に赴いたミラーに「女性禁止」の壁が立ちはだかり──。実在写真家の半生を描く「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」。エレン・クラス監督に本作の見どころを聞いた。

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 本作は友人である俳優ケイト・ウィンスレットから始まりました。映画「エターナル・サンシャイン」の撮影中、私は彼女にリー・ミラーの写真集をプレゼントしました。11年後、ケイトがミラーにまつわるテーブルを手に入れて「なぜリー・ミラーについての映画がないのだろう?」と企画し、私に監督をオファーしてくれたのです。

 彼女の息子のもとには何度も映画化の話があったそうです。しかし写真家マン・レイのミューズとしてのグラマラスな時代の話か、戦地から戻って「壊れてしまった」話ばかりで、彼女が戦争写真家になり真に「自分らしく」いるところを描こうとした人はいなかったそうです。ケイト自身がミラーを演じることも大きかったでしょう。

 物語は1930年代、ヒトラーが台頭しはじめた時代からスタートしようと決めていました。まさにいま同じことが起きていると感じるからです。当時は誰もが「あんな男が」とジョークだと思っていた。トランプ大統領が2期目に選ばれたように、です。ミラーは「女はこうしろ」という時代に「男が出撃できるなら、私もいく」と戦争に行った。その信念と努力のおかげで私たちはそこで何が起こっていたかを知ることができます。彼女は命をかけて真実を伝えようとしました。私たちも同じことをしなければいけないと思います。民主主義と自由を守るために。

エレン・クラス(監督)Ellen Kuras/1959年、米・ニュージャージー州出身。「エターナル・サンシャイン」(2004年)などの撮影監督、ドキュメンタリー作品の監督として高い評価を得ている。全国順次公開中 (c) BROUHAHA LEE LIMITED 2023

 彼女がヒトラーの浴室で撮った写真は象徴的です。なぜそれをしたか。ひとつには彼女はなにかを付け加えることで写真に意味を加えるシュールレアリスト的なアプローチをする人だからです。ダッハウの収容所を歩き回ったブーツの泥をヒトラーのバスマットで落とす。そして裸の女性が彼のバスタブに入る。すべてはメタファーであり意味のあるものなのです。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2025年5月19日号

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