広大なアフリカ大陸のうち25カ国を訪ねてきた、フリーランスライターで武蔵大学非常勤講師の岩崎有一さんが、なかなか伝えられることのないアフリカ諸国のなにげない日常と、アフリカの人々の声を、写真とともに綴ります。
アフリカ北部で起きている紛争の実態を知るため、船で北を目指した岩崎さん。アフリカ独特の大型船の中で出会った人々とは……。今回は船の旅をお届けする。
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ニジェール川は、西アフリカを周遊するように流れる大河だ。ギニアの熱帯雨林からはじまり、マリ、ニジェール、ベナンを経て、ナイジェリアのギニア湾へと流れる。ニジェール川はさまざまなめぐみを周辺域にもたらすだけでない。これらの国々の中で、また国境をまたぎながら、水路としても活用されてきた。
西アフリカの内陸国マリ中部の町モプチでニジェール川では、船の往来が絶えることがない。魚をとったり渡し船として人を乗せたりする小型の船が、あちらこちらに見える。そんな小さな船の合間を、大型の船がゆったりと進んでいる。
大型の船は、人と物を運びながら長距離航路をゆく船だ。バスやトラックが一般的になった今でも、町と町、村と村を結びながら、現地の大切な交通機関として機能している。
今年2月にモプチを訪ねた私は、同国北部で起こっている紛争(※)の実態を知るために、少しでも北部に近づきたいと考えていたが、モプチから北部を目指す乗り合いタクシーは、まるで動く気配がなかった。「明後日には出るだろう」「来週には出る予定だ」という言葉は耳にするが、タクシー乗り場に車はなく、出発を待つ乗客もいない。私は、北部を目指すことをあきらめた。
タクシーが出ないのには、理由があった。モプチから北部の要衝トンブクトゥを結ぶ道は、かつては絶え間ない往来のあるルートだった。しかし、マリ北部の情勢が悪化して以降、車を狙った武装強盗による襲撃が頻発。現地の人々が乗ったタクシーが狙われることは少ないものの、交通量は当然のことながら激減していたのだった。
一方、ニジェール川をゆく船を狙ったトラブルは、これまでにほとんど見られないため、トンブクトゥ行きの船は、現在も運行を続けている。
モプチ在住の友人ハミドゥは、私の意を汲み、それでも北へ進むことを考え続けてくれていた。トンブクトゥを目指すことはできても、トンブクトゥ周辺の状況は極めて流動的なため安心できない。しかし、その手前の町ヤフンケまでならば、問題なさそうだと判断した我々は、大型客船に乗って北部の町ヤフンケを目指すこととなった。
モプチ発ヤフンケ行きは週1便のみ。出発日の朝、水とパンと缶詰を買い込み、私たちは川岸から客船へと乗客と荷物を運ぶはしけ船に乗った。
船着き場があるわけでもなければ、乗船口もない。はしけ船に運ばれながら船に近づき、乗組員が差し出してくれた手をつかみ、船のへりに足をかけてよいしょと乗り込むしかない。はしけ船から客船の縁までの高低差は1メートルほどあるため、慣れていない私には怖い。そんな私の隣で、大柄な老婦人はひょいと乗り込んでいた。
客室は1等と2等に分かれており、1等は2階、2等は1階だ。1等と言えど座席があるわけではなく、平らなスペースにゴザが敷かれているだけ。屋根は低く、立つことはできない。11時前、強い日差しがニジェール川の川面を照らすなか、船はゆっくりとモプチから出航した。