「僕らの笑いはファストフード」。とことん客受けを狙い、万人に届けるという戦略で闘ってきた(写真:横関一浩)
「僕らの笑いはファストフード」。とことん客受けを狙い、万人に届けるという戦略で闘ってきた(写真:横関一浩)
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 2008年、石田明はコンビを組むNON STYLEでM-1を獲った。だが、芸人の間では評価が低かった。石田も、自分たちがとがった笑いではないと分かっている。どう万人に、分かりやすく笑ってもらえるか、なのだ。今、その磨かれてきた分析力が「鋭い」と話題だ。低くかがんだからこそ、大きく跳ねるときが来ている。

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 東京・池袋にあるNSC(吉本総合芸能学院)東京校の教室に、40人余りの芸人の卵たちが整列し、講師の登場を待っていた。静まり返る教室に現れたのは、お笑いコンビ、NON STYLEの石田明(いしだあきら・45)。2021年からNSCで講師を務めている石田の月1回の授業は人気が高く、受け付け開始から10秒ほどで満員になるという。

 石田は教室の一番後ろに座ると、8組の生徒が披露するネタを順番に見ていった。一組終わるごとに講評する。

「はい、お疲れでした。やってることはおもろいねんけど、この空間を支配できひんのは間を恐れてるからやな」

「ハハハ、下手くそやなー。組んだばっかり? ただ2人のキャラクター性は面白いですね」

「キャラクターの面白さがボケとぶつかって相殺しちゃってる」

 それぞれのいいところを褒めつつ、どこが良くないか、どうしたらおもしろくなるのかを、的確に分析し伝えていく。講評できないことはないのかを尋ねると「ない」と即答。

「評価する軸はいろいろあります。ウケるかウケへんか、売れるか売れへんか、自分たちのやりたいことをやれてるか。ウケる、売れる、面白いは全部違います。面白いから売れるわけじゃない。面白すぎることは一部の人にしか理解できないんですよ」

 生徒たちからは「教えすぎというくらい教えてくれる」「どんなに面白くないネタをやっても否定しない」「深いところまで見て理解してくれる」と絶大な信頼を寄せられる。

月1回のNSC東京校の授業では、朝から晩まで生徒のネタを30本以上見て講評する。「あんなに歩かない日はない。その分、脳みそは熱々」。渾身のネタを見てもらい、感激のあまり涙する生徒もいた(写真:横関一浩)
月1回のNSC東京校の授業では、朝から晩まで生徒のネタを30本以上見て講評する。「あんなに歩かない日はない。その分、脳みそは熱々」。渾身のネタを見てもらい、感激のあまり涙する生徒もいた(写真:横関一浩)

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 22年にNSCを卒業した芸歴4年目のべっち(26)は、石田の授業を受けた教え子の一人。石田とのやりとりで、ぼんやりしていた自分の芸がくっきりと輪郭を現す瞬間を味わった。

「僕が言いたいこととかニュアンスで理解していることを、それってこういうことやろ、と言語化してくれる。めっちゃ理解が深まって、自分の中で納得感がある。授業料45万円では収まらないくらいの価値がありました」

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