飛行機や列車、バスの夜行も意図的に選ぶ。時間の節約になることが目的ではない。一泊分の宿代が浮くからだ。寝台列車や寝台バスが走っている国は多い。夜行はたしかに疲れるが、まだそのくらいの体力はある。

 しかし日本は、この夜行便が少ない。JRの夜行列車はほとんどなくなってしまった。夜行バスはあるが、フルフラットになる寝台バスは制限されてきた。昨年発表された国交省のガイドラインで解禁が決まったが。

 そんな環境のなかでフェリー旅に辿り着いた。コロナ禍が明け、宿代が一気に高くなっていた時期だった。最近のフェリーは進化し、大部屋雑魚寝スタイルも減っていた。最も安いクラスでも、カプセルホテルに似たような就寝スペースが確保されていることが多い。僕のような旅行者にはこれで十分だった。

 『シニアになって、旅の空』でもフェリーに乗っている。小樽から新潟、そして新潟から敦賀へ。徳島から東京までのフェリーにも乗った。どの航路も、いちばん安いクラスを選んだ。運賃は――、小樽-新潟 八千五百円/新潟-敦賀 六千六百円/徳島-東京 一万三千九十円

 小樽を出発して二泊三日、ホテルに一泊もせずに敦賀新港に着いたときは、「これからの僕の国内旅はフェリーだ」と確信した。「宿に泊まらない旅」というバックパッカーの感性にぴったり合っていた。

 小樽から敦賀までのルートは、かつての北前船の航路でもあった。ニシンを運んだ歴史を辿りたくて、港や京都でニシンそばを味わう旅になった。

 列車やバスに比べると、フェリーの船内はスペースに余裕がある。フェリーに乗る前に、街のスーパーなどで地元のつまみを買い込み、海を眺めながらビールを飲むことが楽しみになった。船内にはシャワー室や大浴場もある。天候が安定して揺れなければ、こんな快適な旅はなかった。

 国内の長距離フェリーは十五航路がある。東京から四国や九州、茨城の大洗までいけば北海道までのフェリーがある。長距離フェリーではないが、鹿児島から沖縄までのフェリーもある。豪華クルーズというわけにはいかないが、日本のシニアの財布に見合った旅ができる。

 僕にはちょうどいい。

[AERA最新号はこちら]