てしがわら・まい/1982年、横浜市生まれ。組織開発専門家。著書に『「能力」の生きづらさをほぐす』『働くということ──「能力主義」を超えて』『職場で傷つく』『学歴社会は誰のため』など。2020年から乳がん闘病中(撮影:横関一浩)
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 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】違和感をなかったことにせず、未来のために現状を問い直す一冊

「タイパ」「自己肯定感」「ウェルビーイング」「自立」「リスキリング」「ゴキゲン」「成長」「つぶしが利く」……。社会でもてはやされる「よりよい生き方」「しあわせになるには」を疑い、軽やかに解きほぐす20の問い。「社会をよくしようとして、悪くなっていないか?」。再考すべき“岐路”に、私たちは立っているのではないか。違和感をなかったことにせず、未来のために現状を問い直す一冊『格差の”格”ってなんですか?』。勅使川原真衣さんに同書にかける思いを聞いた。

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「よりよい社会」のために──そう言われてすぐに違和感を抱くことができるだろうか? その「正論」が実は、選別的、排他的で失敗を許さない社会、一部の人の特権を維持継続していくシステムを強化しているのではないか?と気づけるだろうか?

 勅使川原真衣さん(42)はデビュー作である『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)で、現代社会に巣食う「能力主義」を徹底的に疑った。「あなたが生きづらいのは、本当にあなたに能力がないからなのか?」と。そして、この本では、その思いを下敷きに、さらに思索を深めている。

 日常の中に蔓延する一見「正論」に見える言葉たち。「能力」「自己肯定感」「整合性」「確約」「自立心」「覚悟」「成長」などなど、「ある」ことが「正義」であるとされていることは、本当にそうなのだろうかと、一つ一つ丁寧に俎上に上げて、読み解いていく。読んでいるうちに今まで言語化できていなかったモヤモヤの正体がだんだん見えてくる。それこそが勅使川原さんが言うところの「岐路」だ。「岐路」は日常生活のここそこに潜んでいる。

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