
誰もが抱える悩み。恋やお金、家族に住まい。それらと向き合い、傷つきながらも前を向いて決断する主人公を、ユーモアたっぷりに描く。
そんな小説を読みたい人は、ぜひ『あなたの四月を知らないから』を手に取ってほしい。
ライターの瀧井朝世さんを唸らせた、青山ヱリさんの精緻でコミカルな筆は、きっとあなたの心にも温かな光を当てる。
青山ヱリさんの『あなたの四月を知らないから』の読みどころを瀧井朝世さんが綴った書評を紹介する。
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新人とは思えない達者な書き手
『あなたの四月を知らないから』 青山ヱリ 著 朝日新聞出版より4月18日発売予定
この人の日常を、この人の思考回路や会話を、ずっと読んでいたい。そう思わせるのが、青山ヱリの『あなたの四月を知らないから』だ。収録される「大阪城は五センチ」はnoteが主催する「創作大賞2024」で朝日新聞出版賞(恋愛小説部門)を受賞した中篇だ。単行本デビュー作となる本書には、受賞作とそのスピンオフ「ゼログラムの花束」の二作品を収録する。新人とは思えない達者な書きっぷりに舌を巻く。
「大阪城は五センチ」は四十手前の女性の恋愛における心の揺れだけでなく、生活やお金、家族や住まいに関する思いや迷いと決断が丁寧に描かれていく。関西弁の会話が柔らかくてユーモアにあふれ、クスリと笑わせてくれる。
会社員の八木由鶴は独身、一人暮らし。プライベートで仲良しなのは、二十九歳の部下、多部ちゃんだ。特別な目標はなく、結婚の予定もなく、大きな変化もなく積み重なっていく日常。そのなかで彼女に自信を与えてくれるのは、もうすぐ一千万円に届く貯金である。家族たちからはそんなに金があるなら家を買えと言われているが、まったくその気になれない。だがその年、初詣の帰りに多部ちゃんからマンションを購入したと告げられ、新居に招待されたことで刺激を受ける。