昨年9月末で診療を休止した東京・吉祥寺南病院。「さまざまな設備がそろっていたので、たいがいの病気の治療はここで完結できた」(周辺住民)=米倉昭仁撮影

市も後押し、署名活動も

 なぜ、吉祥寺南病院は診療を休止することになったのか。

 吉祥寺のメインストリート、井の頭通りに面した吉祥寺南病院は築55年。10年ほど前に建て替え計画が持ち上がると、武蔵野市も後押しした。市は19年に「吉祥寺地域医療拠点地区まちづくり協議会」を設立。地域住民から賛同を得たうえで、建て替え予定地(現病院のとなり)の用途制限と建物容積率を変更し、新病院が建設されるはずだった。

 前出の吉岡さんも賛同を得るために署名活動を行った。

「『病院が新しくなればいいわね』って、地域の住民は希望を抱いたんです。たくさんの方が署名してくれました」(吉岡さん)

 ところが、「新型コロナウイルスの流行を境にすっかり様子が変わってしまった」(同)。経営状態が厳しいらしいという話も漏れ聞こえてきた。

 吉祥寺南病院の経営母体である医療法人「啓仁会」が昨年9月末で診療を休止することを発表したのは、その2カ月前の7月のことだ。

吉祥寺南病院の事業継承先決定を伝える記者会見=3月5日、米倉昭仁撮影

病院経営の悪化が背景に

 武蔵野市議の川名ゆうじさんはこう説明する。

「『建設費高騰から建て替えを断念する。建物の耐震化が現行基準に達していないことによる危険性を考え、診療休止を決断した』と、啓仁会から市に連絡がありました」

 啓仁会は、同病院の許可病床数を継承する法人を探してきたという。

「病院経営の悪化が背景にあると推測できます。継承先が見つからないと、医療機関と病床数が減るだけでなく、大災害時の緊急医療体制も大きな打撃を受けます」(川名市議)

 啓仁会は、今年3月5日、吉祥寺南病院事業を社会医療法人「東京巨樹の会」が引き継ぐことを発表した。

「建て替えについての具体的な計画はこれからで、どうなるか、まだわかりません」(同)

「建て替え困難」は他の地域でも

 資金不足により病院が建て替え困難に直面する事態は、他の地域でも起きている。

 1977年に東京・多摩ニュータウンの基幹病院として開院した日本医科大学多摩永山病院も、建て替えに向けて多摩市と協議を重ねてきた。だが、昨年5月、建て替え計画の検討の終了が発表された。市によると、「建替え資金の調達のめどが全く立たないうえ、多摩永山病院単独の収支が厳しい状況にあった」ことが理由だという。

 埼玉県のベッドタウンにある越谷市立病院(築49年)の経営も厳しい。2023年度は約6億7220万円の純損失を出した。松島孝夫・越谷市議は昨年12月の本会議で、老朽化が進む同病院の建て替えについて、「現在と同規模で建て替えた場合、500憶~600億円かかるという試算が担当部署から上がっている。市は負担できるのか」と質問した。

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