
それは米国民の多くが、第2次大戦後、米国は世界の犠牲になり続けてきた、と捉えていたからだ。第2次大戦で欧州全土が崩壊し、米国は巨額な資金を投入して復興させた。アジア諸国でも同様のことをやっている。
さらに、グローバリズムの潮流もあるだろう。グローバリズムとはヒト・モノ・カネが国境を超えて、国際市場で活躍するということだ。世界で最も人件費が高い米国の経営者たちは、工場を人件費の安いメキシコやアジアの国々に移設させ、国内の工業地帯の多くは廃虚同然となった。米国民、特に白人の少なからぬ労働者が失業してしまった。
こうした現実から米国民はトランプ氏の宣言に同調したのだ。
さらにオバマ大統領が、ロシアや中国の、民主主義ではないがゆえの強引な、半ば暴力的なやり方を抑えられなかった。その反動がトランプ支持となっているのだとも捉えられていた。
トランプ派と反トランプ派の深刻な分断こそが、現在の米国の問題だという声が強いが、私はむしろ分断は米国の長所であると考えている。分断された両派が徹底的に論争をすればよいのであって、分断がなく、国民の多くが自粛してしまう日本こそが問題ではないのかと憂えている。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2023年4月28日号