
地球上のどこかに味方はいる
フォトエッセーの中には「夢を持つこと──たとえ持っていなくても」という項目がある。筆者がそのフレーズがとても印象的だったと伝えると、渡邊さんはこう答えた。
「本の中では一番短いトピックなのですが、これは絶対に入れようと思っていたんです。私は、自分が抱いていた夢や目標が、ある日突然、壊れて、それを失うという経験をしました。どうやって生きていったらいいかわからくなって、自分の存在意義がなくなったように感じた時期もありました。だから、夢はあるだけで素晴らしいもので、自分が頑張れるエネルギーになるものだと今夢を追いかけている人の背中を押したかった。また、もしそれがなかったり、なくなったりしても、大丈夫だよと。夢や目標がなくても焦らなくていい、ないことを引け目に感じる必要はないと伝えたかったんです。本の中でもここは特にメッセージを込めた箇所です」
2023年6月、渡邊さんは後に大きなトラウマとなる出来事を体験する。それにより体調を崩し、同年7月に都内病院の消化器内科に入院した。心身に不調をきたし、食べ物も喉を通らなくなった。
「コロナの時期でもあったので、基本、面会はできませんでした。それでも(芸人の)キャイーンの天野ひろゆきさんは連絡をくださったことは本当に感謝しています」
自身が予期せぬ出来事で傷つけられ、精神科での入院生活を余儀なくされた日々についてこう振り返った。
「精神科にかかるということがイコール、心が弱い人と受け取られる風潮は間違っていると思います。私は精神科の担当医からPTSDと診断されましたが、それは心が弱いからじゃなく、脳にダメージを受けている状態なんです。わかりやすく言えば、脳の損傷なんです。だから、心の不調というよりも、脳の病気として理解していただけたらうれしいです」
だからこそ、今悩んでいる人たちにはこう伝えたいという。
「もちろん病院にかかるのが一番簡単ですが、医師だけが病気を治すわけではありません。周りにいる人たちの言葉で救われることもあるんです。自分には友達なんていないと思っている人もいるかもしれませんが、実は大切に思ってくれている人がいることもあります。私自身もあまり友達はいない方だと思っていたんですけど、それは私が周りを見てなかっただけだと気づきました。ちゃんと向き合ってみたら、大切に思ってくれる人はいるんですよね。地球上のどこかに絶対に自分の味方はいる。そう信じてほしいなって思います」