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是枝:それは「こういう人もちゃんと生きているよ」っていうことを描くことですよね。いわゆる教科書に載らない人たちの話を積み重ねていくことが、映画のひとつの役割なのかなという気がしています。さらにベイカー監督の映画には、そういう立場の人たちを見つめる人物が出てくるんですよね。「フロリダ~」でウィレム・デフォーが演じたモーテルの管理人や「アノーラ」のイゴール。そうしたある種、倫理観というか自らの美学を持った人間がいてくれることが、映画の世界観を絶望から救ってくれている。
ベイカー:彼らは観客に「自分がこの状況にあったら自分はこういう人だろうか」、または「こうありたい」と思わせるようなキャラクターだと思っています。個人的にはダークな作品も好きなのですが、自分の映画ではやっぱり希望のある笑顔が描きたいんですよね。
是枝:まったく同感です。
(構成/フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2025年3月3日号より抜粋
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