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名字が変わって面倒なこともある。各種名義変更だ。銀行口座やクレジットカード、免許証や保険証、中には有料なのもあり、手続きに3千円以上かかった。3千円なんて、デパ地下のちょっといいチョコレートが買える値段だ。名字が変わらなければ必要の無い出費だ。
離婚した時も名字は変わるが、「婚氏続称届」を提出すれば離婚前の名字のまま生活できる。私の知り合いにも居るが、彼女は離婚後も同じ名字だ。自分だったらどうするだろう?と考える。多分変えないだろうな、子供もいるし何よりまた3千円取られるのは痛い、なんか値上がりしてそうだし。

夫婦別姓という言葉をよく耳にするようになった。『結婚したらどちらかの姓になる』まあ、そういうものなんだと思っていた。日本に多い名字ベスト5に入るような名字だったから変わる事に抵抗がなかったのか、逆に珍しい名字だったら変わる事にもやもやしただろうか?

でも、名字が変わる事で有名人と同じ名前になるとしたら抵抗したかも。それこそ待合室で今度は周りが腰を浮かしてしまう。その時は夫婦別姓を声高に叫んでいたかもしれない。今をときめく俳優さん達と同姓同名になるという事は避けられたが、子供を2人授かり、家族が4人になった今、家族の中で誰かの名字が違ったら少し寂しい感じはするな、とは思う。

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子供が生まれると『〇〇ちゃんママ』という新しい名前がついた。人との関わりの中で相手の名字しか知らないなんて場面はいくらでもあるが、ここではもう名字すら必要なくなった。
顔は知っているし、子供の下の名前も知っている。だが今目の前でニコニコ楽しくおしゃべりしている女性の名前を私は知らない。子供に「〇〇ちゃんって名字何?」と聞いて初めて知ったことも1度ではない。

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15年一緒にいる名字、愛着もある。15年経って名字以外に変わった事って何だろう?夫婦2人だった家族は4人に増えた。キラキラしてると言われた指輪は2回の妊娠出産を経て入らなくなり、クロゼットの中でその輝きを失っている。私はどうか?病院の待合室で旧姓と同じ人が呼ばれてもすましていられる。心の中でそっと「私も同じ名字だったんですよ」と呟くくらいの余裕を持って。
 

「AERA dot.」鎌田倫子編集長から

夫婦別姓の議論が盛り上がっていますが、旧姓との距離感は時間とともに変わっていくもの。名前の現実とは意外とそういうものなのかもしれないと思わせるエッセイでした。

結婚後に変わった名字が自分に馴染んでいき、その名前での活動や生活の積み重ねで自分自身そのものになる。

肩ひじ張らない自然体の文章に、そういう側面もあるよなあと、夫婦別姓に賛成している私も妙に納得してしまうのでした。
 

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