元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】社内飲食ができなくなる?

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 前回書いたように、近頃流行の豪華弁当に怯える我が弁当選びの合言葉は「新しいものに手を出すな!」。ってことで先日、仕事で夕刻の東京駅から金沢に向かった際は崎陽軒へ直行。むろん目当てはシウマイ弁当。70年以上の伝統ある品は、改めて見本をとくと眺めれば、見た目も程よく地味。ご飯とおかずのバランスも実に考え抜かれ、予想通り安心の品である。

 ってことで早速注文しようとすると、後方から若い男女の声が。「シュウマイ、匂うよね?」。え? いや確かに車内で臭いがマナー違反という主張を聞いたことはあったが、そんなんネタやろとタカを括っていたからマジでそうなんとビビり、だがその後に男性が「でもビールに最高じゃん」と言うのを聞いてそーだそーだと勇気づけられ、予定通りシウマイ弁当と缶ビールを買ってほくほくと新幹線に乗り込んだのでした。

平日にはこのような車両になるらしい。そのマナーの注意書きが細かくてまた驚く(写真/本人提供)

 電車が動き出し、お約束の「プシュ」という音を立てビールを開ける。だがあちこちから聞こえてくるはずの「プシュ」の合唱がない。不安になりさりげなく立ち上がって視線を走らせると、缶ビールを手にしている人は私の他1名のみで、弁当を開いている人は発見できず。パンや菓子とペットボトル飲料で過ごす人が大半である。

 え……もしやシウマイがどうこう以前に、車内飲食そのものが非常識なのか? 焦って臭い防止のためシウマイを秒で腹に納め、その後も可能な限りの高速で弁当&ビールを平らげて、何事もなかったフリをしつつネットを検索。するとやはり、車内飲食の賛否を問う記事がワラワラ出てきた。車内販売終了が論争のきっかけになった模様。「新幹線といえば弁当」を楽しみに60年生きてきた身にはまさかすぎる事態である。

 我が国は、みんながマナーを守る素敵な国になりつつある……のだろうか? っていうか迷惑ってそんなに撲滅すべきこと? 迷惑ってかけたりかけられたりするのが生きるってことなんじゃ? と、弁当を食べたいおばさんは心の中で叫んだのでした。

※AERA 2025年3月3日号

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