エマニュエル・トッド氏
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 2月24日、ロシアがウクライナへ全面侵攻に踏み切ってから3年を迎えた。米国のトランプ大統領がウクライナの頭越しにロシアとの交渉に乗り出すなど、状況はより不安定さを増している。「ソ連崩壊」から「米国の金融危機」などを予言したフランス人歴史家・エマニュエル・トッド氏は現代の国際情勢をどう見ているのか。過去の記事を再掲する。(この記事は「AERA dot.」に2024年3月9日に掲載されたものを再編集したものです。本文中の年齢、肩書等は当時のもの)。

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「先進国にとって、最悪の事態はまだ来ていない」。そう語るのは、フランスの歴史家エマニュエル・トッド氏だ。家族制度や識字率、出生率に基づき、現代政治や社会を分析し、「ソ連崩壊」から「米国の金融危機」などを予言したトッド氏が本当に恐れていることとは? 最新刊『人類の終着点――戦争、AI、ヒューマニティの未来』(朝日新書)から、その真意を一部抜粋・再編して公開する。

 エマニュエル・トッド:現在のアメリカはある意味、基本的自由が国家によって衰退させられている状況とも言えます。ただアメリカに関して言うと、私は学資ローンをとくに心配しています。

 長い間、アメリカで経済的に生き抜くということは、「何らかの高等教育を受ける」ということでした。高等教育を受けることで、グローバル化の最悪の影響から逃れることが可能になっていました。

 しかし、もちろん、アメリカでは教育機関がますます私立化されています。多くのお金がかかり、大半の学生は銀行からお金を借りて勉強しなければならず、借金を背負っています。

 この問題をバイデンが何とかしようとしているのは知っています。しかし、そう簡単に負債を背負わせる動きが止まったり、覆されたりするとは思いません。

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