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銀行は預金者からお預かりしたお金を企業等に貸し出すことで、お金を回している……という常識は間違いだった?! 経済をテーマにする小説家・榎本憲男さんによるコラム。
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昨年出た本の中でぜひとも2025年に繋げたいのは、中野剛志著『入門シュンペーター 資本主義の未来を予見した天才』(PHP新書)だ。
シュンペーターは、経済学の本を開けば必ずと言っていいほど目にする大物の経済学者である。シュンペーターといえば、イノベーション。経済発展にはイノベーションが必要だと説き、強靭さと意思の強さを兼ね備えた企業者がイノベーションを起こすことで、結果として経済を発展させ、生活を長期的に向上させるのだと主張した、などという説明をよく目にする。そして、シュンペーターの理解は大抵はここで止まる。しかし、著者は貨幣観に遡ってこの経済学者の経済学を捉え直そうとする。シュンペーター経済学の根幹にある貨幣論とは信用貨幣論であり、その急所は信用創造である。
銀行は「無」から貨幣を生み出すことができる?
資本主義経済の持続的な発展のためにはイノベーションが必要だ。そのためには研究・開発などに必要な資金がいる。それをどこかが支出しなければならない。この役割を果たすのが銀行である。そして信用創造という貨幣の創造がおこなわれる。
信用創造とは、わかりやすく言えば、銀行は貨幣を無から創造できるという考えだ。私たちは、銀行は顧客から預かった預金をよそに貸し付けていると考えがちである。そもそも、最近までハーバード大学のビジネススクールでもそう教えてきた。預かった預金が貸付に回っていく仕組みを銀行ごっこをさせながら理解させていたらしい。このことは、ニーアル・ファーガソンの『マネーの進化史』(仙名紀訳)に書かれている。しかし、これはまちがいなのだ。銀行はなにもないところから貨幣を生み出すことができるのである。コンピューターのキーの一打で、預金という名の貨幣を生み出せるのだ。もっと縮めて言えば、貸し出しをすれば(負債が生まれれば)預金(という名前の貨幣)が生まれるのである(つまり貨幣の本質は負債であり、借用書だ)。