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<退職所得控除の計算式>
20年以下:40万円×勤続年数※
(80万円に満たない場合には80万円)
20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
※勤続年数が1年未満の場合は1年に切り上げて計算
「改悪だ」と一部で声が上がったのが、この退職所得控除の課税ルールの変更だ。退職金の税金計算には、複数の退職金を同年に受け取る場合には退職所得控除期間の重複部分はカウントせずより額の大きい退職所得控除のみ利用するというルールがある。また退職金の受け取り時期をずらしてもそれが「4年以内」であれば同年受け取りとみなし、やはり重複期間分の退職所得控除が利用できない。逆にいうと、退職金を受け取った後5年後に別の退職金を受け取れば、重複期間は消滅せず退職所得控除額の計算に組み込まれる。つまり受け取り時期によって退職所得控除の「二重取り」が可能になる。
一般的には複数の企業に重複して勤めかつ退職金を受け取るということはあり得ないが、iDeCoは私的年金でありながら退職金として扱うため、一時金で受け取る際には、上記の退職所得控除の課税ルールが適用される。
例えば、会社に38年勤務して60歳で退職金を受け取り、iDeCoは10年間掛金を拠出しやはり60歳で受け取る例を考えてみよう。会社の退職金には、2060万円(800万円+70万円×(38年-20年))の退職所得控除が計算でき、iDeCoには400万円(40万円×10年)の退職所得控除が計算できる。
このような場合、退職金とiDeCoを60歳で同時に受け取るあるいは先にiDeCoを受け取り4年以内に退職金を受け取ると、重複期間であるiDeCoの10年間に対する退職所得控除は消滅し使える退職所得控除は2060万円のみとなる。一方で、iDeCoを受け取った5年後に退職金を受け取ると、400万円、2060万円の退職所得控除がそれぞれ利用可能であるため、より多くの金額を非課税で受け取ることができるのだ。
この「4年以内」というルールが、2025年の税制改正大綱では「9年以内」に延長され、60歳でiDeCoの一時金を受け取った場合は、退職金にも控除を使うためには70歳まで受け取りを待たなければならなくなる。つまり、今回の改正を「改悪」としているのは、60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金を受け取る算段だった人たちなのである。