
ⓒ1998 筒井康隆/新潮社 ⓒ2023 TEKINOMIKATA
宣伝・配給:ハピネットファントム・スタジオ/ギークピクチュアズ
長塚は役者人生のありったけの粋を監督の前に披露し、監督はその集大成を十分に引き受け、モノクロで一分の隙もなく作品化している。無駄なものはなかった。
しかし、映画のタイトル「敵」とは何なのだろう。それは北から来るのだという。
敵は主人公の静謐な生活をたぶらかしにやってくる美しい二人の女性と、突然現れ、「あなたはフランス演劇史が専門だったのに一度もパリに連れて行ってくれなかった」となじる死んだはずの妻?
確かに女たちによって主人公の生活は幾分乱れるが、時の流れは強大だった。
時間は否応なしに、その敵を排除して元大学教授に安らかな死を与える。
彼は願望通りに誰に迷惑をかけることなくこの世を去る。
先日お会いした山極寿一さんに教えてもらった言葉を思い出した。
「美しく老いること。これが大事だ」
そういえば、山極さんも大学教授だった。

ⓒ1998 筒井康隆/新潮社 ⓒ2023 TEKINOMIKATA
宣伝・配給:ハピネットファントム・スタジオ/ギークピクチュアズ
(文・延江 浩)
※AERAオンライン限定記事