現代のホワイトカラー企業において、仕事=管理の競技です。時間やお金や人といったリソースを管理して、効率よく成果に繋げる。それが仕事です。遅刻や無駄遣いや無駄な会話は、仕事の邪魔であり、だらしなさは管理の対極にあります。そのだらしなさサイドの住人が、私ポインティです。

 仕事のできないポインティが、出版系ベンチャーに入ったら、もうそれはそれはミスや事故の連続で、仕事が永遠に終わらない状態に突入します。しかも先輩や上司は転職してきた腕利きばかりなので、「まずなんでこんなミスが起きるのか」が分からず、対策もしづらい。「ピタゴラスイッチ」みたいに、ミスがミスに繋がりミスが起きまくっているときは、かなり殺伐とした空気が流れていました。そりゃそう。そんな経験があるので、『死んだら永遠に休めます』のブラック企業体験は、懐かしいものがありました。

 限界会社員の主人公・青瀬は、ブラック企業とパワハラ上司に追い詰められてセルフケアもできず、亡者のように出社する日々を過ごします。そんなある日起きた、パワハラ上司の失踪事件。その後の展開は王道のミステリ小説といった感じで、色々な場所で証拠や証言を集めて仮説を立てていきます。その王道展開の相棒であり本作の空気を明るくしてくれるのが、頭の冴えるギャル派遣社員・仁菜です。むちゃくちゃいいキャラ〜! こういうキャラがいると作品が楽しくなりますよね。

 しかし、限界会社員ミステリが王道で進んでいった結果の、大オチである事件の真相は、かなり予想外のものでした。ポインティは学生時代からミステリ小説が好きで、読んでいる途中で犯人や展開が分かってしまう「勘のいいガキ」なのですが、この結末は予想がつきませんでした。王道ミステリに油断していたら、サクッと斬新さに刺された。

 オチへの言及を避けたくて、抽象的すぎる言い方になってしまうのですが「読み手がどんな人かによって、真実までの距離が違う」というタイプの作品で、ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』に近いかもしれません。

 過去に忙殺されまくったことがある人や、ギミックとして面白いミステリ小説を読みたい人は、ぜひ『死んだら永遠に休めます』を読んでみてください。

 そしてくれぐれも、今まさに忙殺されている人は読まないように……。もしかしたら不都合な世界の真実に気付いちゃうかもしれません。

一冊の本 3月号
『死んだら永遠に休めます』  遠坂八重 著
朝日新聞出版より発売中

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