かつては「子どものもの」だったが、今や大人が楽しむ存在に。お化け屋敷は日常と非日常の境目に存在する(写真:オフィスバーン提供)
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 昨今、さまざまな媒体で注目を集めているホラー作品。なぜ人は恐怖を求めてしまうのだろうか。お化け屋敷から出るとどうして気分がすっきりするのか。AERA 2025年2月24日号より。

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「恐怖による強い刺激を受けることで、ストレスが吹き飛ぶ感覚があります」

 そう話すのは、ホラー作品が「とても好き」だという看護師の女性(23)。仕事で精神的に追い詰められたり、単調な日々が続いたりしたときには、ホラーコンテンツでストレスを発散させる。選ぶのは、現実世界でも起こりそうな映画「パラサイト」や人外ホラー「チャイルド・プレイ」、不気味な雰囲気が漂う「ファウスト」など、作品のタイプはさまざまだ。

 悲しいときや落ち込んだときはホラーから離れ動物の動画などに「癒やし」を求めるが、ストレス発散にはもっぱら恐怖コンテンツを摂取する。そこにはこんな効果があると感じている。

「平凡な毎日に飽きていても、ホラー作品で安全ではない状態を感じることで日々のありがたさに気づいて満足感が得られます」

 作中で恐怖に立ち向かう人間の姿を見て、自分も頑張ろうと奮い立たされる。作品を見終えて、変わらない日常を噛み締めたときの安心感には、ホラー以外では得難いものがあるという。

「日常のありがたさの再認識は、恐怖が持つ“効能”の一つ」と説明するのは、著書に『恐怖の正体』などがある精神科医の春日武彦さん(73)だ。春日さんは言う。

「私たちが怖いものに求めているのは、一言で言えば『濃厚な非日常感』です。恐怖に触れることでささやかな日常に感謝したり、心がリセットされたりする。想像を超えたものが見たいという好奇心も満たされるし、仲間といれば『吊り橋効果』でより絆が強まることもあります」

楽しさ生む緊張と緩和

 テクノロジーの進化も近年のホラーコンテンツの盛り上がりに一役買っている。映像作品はよりリアルになり、VRや音響技術を駆使した没入型のお化け屋敷も誕生。東京ドームシティに常設されているお化け屋敷「怨霊座敷」の演出にチームラボが参加するなど、新しい恐怖表現が生まれている。

「怨霊座敷」を手掛けたお化け屋敷プロデューサーの五味弘文さんは言う。

「大切にするのはストーリー性を重視したお化け屋敷をつくること。お客さんがより物語に没入できるように、幽霊の足を縛ったり、靴を脱いだりといったミッションを加えることも意識しています」

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成熟したホラー市場