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でも、このとき得た痛みが、『源流』からの流れを強める伏線となる。失敗は、誰にでもある。それを「同じ過ちは繰り返さない」と糧にするか、「もう将来はないな」と投げやりになるか。気持ちの差が、先々、大きな開きになっていく。五島さんは、中学校でブラスバンド部の指導者の先生を失っても、常に前へ進むことを考えた。宇美支店で失敗があっても、行橋支店で得た体験にも支えられ、意欲を失わずに過ごす。
そうした姿勢を銀行内の誰かがみていて、評価してくれていたのだろう。大分支店に2年いると、本店中枢部門の一つ人事部へ呼ばれた。驚いた。昇進が遅れたし、人事部はそれを決める部署だから、そこへいくとは思ってもいなかった。
人事部門でも同様に一人一人の話を聞き一緒に目標へ向かう
人事部門に12年いた。採用や行員の評価、異動案つくりをやり、人事や退職金の仕組みも考えて従業員組合と交渉した。行員一人一人とも会い、まず相手の話をよく聞いて、何をしてほしいのかをつかむ。その実現に何ができるかを提案し、一緒に目標へ向かう。『源流』からの流れに、勢いが増していく。
2007年4月、福岡銀行は熊本市に本拠を置く熊本ファミリー銀行、現在の熊本銀行との経営統合を発表。同10月には長崎県佐世保市に本店を持つ親和銀行、現在の十八親和銀行との統合も決め、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)が誕生する。グループの融合には、組織の見直しも欠かせない。五島さんは福岡銀行とFFGの人事部門を兼務し、グループの再構築へ参加する。
2022年4月、FFGの社長に就任、福岡銀行頭取も兼務した。FFGはいま福岡市の福岡中央銀行、ネット専用のみんなの銀行も傘下に持ち、地方銀行の雄だ。機会があれば、支店などを回って説いている。「とにかくお客さま本位で、人と組織の活力を発揮してほしい。ただ楽しいだけの緩い職場ではなく、やはり収益を上げ続ける。両方やらなければいけません」
振り返れば「いまの自分をつくっているのは、自分たちだけで部活動を運営しなければいけなくなって、部長を務めた経験だと思います」と言い切る。その経験を、行橋支店で出会った歯科医師の苦言で思い出す。
『源流』からの流れは、もう澱むことはないだろう。(ジャーナリスト・街風隆雄)
※AERA 2025年2月17日号
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