ニュースでもたびたび目にする「国際ロマンス詐欺」。SNSやマッチングアプリで恋愛感情を抱かせ、金銭をだまし取る特殊詐欺のことで、日本でもその被害は急増しているそうです。なぜ被害者は一度も会ったことがない相手に簡単にだまされ、数百万から数千万、場合によっては億単位ものお金を奪われてしまうのでしょうか。また、犯人はどういった人物なのでしょうか。被害者・加害者の両方に取材し、実態を明らかにしようと試みたルポルタージュが、水谷竹秀氏が著した『ルポ 国際ロマンス詐欺』です。
水谷氏が話を聞いた被害者たちを見てみると、夫も子どももいる主婦、娘二人を育て上げたシングルマザー、結婚を強く希望する独身高年男性、東京でIT系会社に勤める20代女性など年代も環境もさまざま。しかし共通するのは、どこかに一抹の寂しさを抱えている点かもしれません。「40過ぎのネックになる部分を温かく包み込んでくれた」「母のことまで気にかけてくれる彼女の優しさが身に染みた」「愛情を求めていた」......被害者たちはそんなふうに当時を振り返ります。水谷氏は「晩婚化や生涯未婚率の増加、独身中高年の寂しさなど、現代日本社会の問題が透けて見えてくる」(同書より)と記します。
また、恋愛感情と同時にお金への憧れを煽ってくるのも犯人の手口です。やりとりが盛り上がったところを狙って、犯人は金銭の振り込みや暗号資産への投資を巧みに持ちかけてきます。しかし、一度お金を渡すと人間は「損を取り戻そうとする心理」が働いてしまい、「自分が騙されていると気づいても、それを確定させたくないから、これは本当なんだと信じ込ませる心理が働き、お金がなくなるまで振り込み続ける」(同書より)のだといいます。
さて、水谷氏が取材を進める中で明らかになってきたのが、国際ロマンス詐欺犯は西アフリカを中心として世界中に広がっているのではないかということです。特にナイジェリアでは、ロマンス詐欺を含むさまざまな詐欺をはたらいて外国人から大金を搾取し、そのお金で高級車を買ったりクラブで遊んだりする「ヤフーボーイ」なる若者たちが有名だといいます。
そこで、ヤフーボーイたちの正体を見極めるべくナイジェリアへと飛んだ水谷氏。サイバー犯罪学を専門とする現地の大学教授の紹介のもと、国際ロマンス詐欺犯たちに接触します。「ナイジェリア全土の大学生の多くが、スマホを駆使し、国際ロマンス詐欺をはじめとするサイバー犯罪に手を染めている」(同書より)という話には驚かされますが、同書を読むと、ナイジェリアという国特有の事情が背景にあることがわかります。
もちろん、だからといってこうした犯罪が許されるわけがありません。いまも被害者たちには、「借金返済と人間不信という二次被害を背負いながら、そして時にはやり場のない怒りを抱えながら、せつない日常を少しでも前向きに生きている」(同書より)という現実があるのですから。
私たちは誰しもどこかに寂しさを抱えており、金銭欲や射幸心を刺激されない人間なんていないでしょう。そう考えると、自分がいつ騙される立場になってもおかしくはないのかもしれません。同書は「自分は大丈夫。詐欺になんて遭うわけがない」――そんなふうに思っている人にも読んでいただきたい一冊です。
[文・鷺ノ宮やよい]