5号機の原子炉圧力容器の直下。頭上には、制御棒駆動装置などが迫る。円筒状の内部は狭く、直径4メートルほどで、立って歩くこともできない(写真:代表撮影)
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 メルトダウンが起きた東京電力福島第一原発の事故から14年。国と東電は「2051年までに廃炉完了」を目標に掲げるが、トラブルが相次いでいる。その背景には、何があるのか。AERA 2025年2月3日号より。

【イラスト】福島第一原発2号機のデブリ試験取り出しイメージはこちら

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 福島第一原発ではトラブルが相次いでいる。

 一昨年10月、汚染水から放射性物質を取り除く「ALPS(アルプス)」と呼ばれる多核種除去設備で汚染廃液が飛散し、作業員が入院した。昨年2月には、汚染水の浄化装置の配管を洗浄した際、排気口から汚染水約1.5トンが漏れ出す事故が起きた。発見が遅れれば、周辺環境に影響をおよぼす恐れがあった。

 こうした事例から浮かび上がるのは、請負依存の構造だ。

相次ぐトラブルの背景に東電の下請け依存の構造

「多層請負構造を前提に請負先である協力企業との在り方をより協調した関係に変えていく必要がある」

 政府と原子力事業者による認可法人「原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)」は、昨年9月下旬に公表した2024年版の「技術戦略プラン」の中でそう記した。

「多層請負構造」とは、受注した元請け会社が下請け会社へ仕事を発注していく仕組み。業務が階層的に外注されることから、こう呼ばれる。福島第一原発の廃炉作業では、東電が下請けに発注した仕事が、孫請け、ひ孫請け……。6次下請けまであるといわれる。

 昨年8月、福島第一原発では事故後、初めて燃料デブリの取り出しを試みたが、作業は2度にわたって中断した。1度目は、格納容器に挿入する釣りざお式装置を押し込むために使う5本のパイプを接続する順を作業員が間違えるという、実に単純なミスだった。

 この時、現場を仕切ったのは元請けの三菱重工業で、同社からパイプの設置を受注した下請けの協力会社が間違えた。のちに、東電社員はこの作業に立ち会っていなかったことが明らかになった。

 NDFはさらに、技術戦略プランの中で様々な作業についてオーナー(発注者)としての東電に監督責任があると強調し、「下請け任せになっていないか」と懸念を表明した。同プランは毎年更新されるが、請負構造の問題を提起したのは初めてのことだ。

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それでも東電は「2051年廃炉完了」の看板を下ろさない